この連載は、アーリーステージのスタートアップや投資家たちが毎月集う、クローズドなイベント「Monthly Pitch」の現場で出会った起業家を取り上げるシリーズです。登壇希望の方はこちらから Food Curate La […]この連載は、アーリーステージのスタートアップや投資家たちが毎月集う、クローズドなイベント「Monthly Pitch」の現場で出会った起業家を取り上げるシリーズです。登壇希望の方はこちらからFood Curate Lab の代表取締役・齊藤康平氏が手がける「COZY MILK(コージーミルク)」は、愛犬に飲ませるためのドリンクだ。中身は糀甘酒である。米と米麹、水を発酵させた液体に、天然の塩をごく少量だけ加えている。愛犬になぜ甘酒なのか。糀甘酒は「飲む点滴」と呼ばれ、ブドウ糖、必須アミノ酸、クエン酸を含む。そこに塩を足しているのは電解質として働かせるためで、体内の水分に組成を近づけることで吸収効率を上げる狙いがある。設計思想としては、犬用の経口補水液に近い。そもそも犬の水分補給は水を置いておくか、フードに含まれる水分に頼るかしかない。ドライフード中心の食生活では、水分は不足しやすい。水を置いても飲みつきが悪ければ意味がない。だから、飲みつきが良くて吸収効率の高い液体を一本足す。製品は3種類ある。そのまま与える通常タイプが1本500円、4倍濃縮タイプは1包で100ミリリットル分を作れて200円、ほかに機能性成分を加えたシリーズもある。販路は自社 EC と小売、そしてイベント出展だ。2023年8月設立。製品は金沢で創業およそ400年の酒蔵、福光屋との共同開発で生まれた。米国・パサデナのイベントでは約1,000名に製品を届けており、今年7月にはインド・ニューデリーでローンチイベントを開く。犬用ドリンク。あるようでなかったようなカテゴリの商品だ。これはどうやって生まれたのか。Monthly Pitch のステージに立った齊藤氏に改めて話を聞いた。飲料メーカー同期2人が、子ども向けドリンクから犬にたどり着くまで齊藤氏と共同創業者の清水大輔氏(共同創業者兼 CSO​)は、大手飲料メーカーの仙台で同時期に働いていた仲だそうだ。年齢も同じ。ただし一緒に働いたのは1年だけだ。清水氏は先に退職し、渡米して和牛の卸を手がけ、やがて自ら精肉店を創業した。齊藤氏のほうは外食企業へ転職し、B2B の業務用や外食を主戦場にしてきた。2人とも食から離れなかったが、進んだ方向はまったく違う。再合流したのは2021年、コロナ直後だという。2人はそれぞれ別の仕事を持ちながら、プラントフードのスタートアップにボランティアのような形で関わった。そこで見えたのは、人が食べるものの側にも構造の歪みがあるという現実だった。安く大量に作って大量に売る。資本主義経済においてはどうしようもない現実だ。安くなるほど体に良くないものになり、それが最も届きやすいのは、情報を持たない子どもや高齢者になる。だから当初の構想は、子ども向けのドリンクだった。市場が一気に伸びる国では、砂糖の入った炭酸飲料が現地生産で安く出回り、それが「おいしいもの」として定着していく。そこに別の選択肢を置けないか、と考えたという。ただ、人の食の世界は大手のマーケティング力に敵わない。自分たちが立てる場所を探すうちに行き着いたのがペットだった。調べる中で、食肉の消費量の20%がペット向けに流れているという数字を知り、衝撃を受けたと齊藤氏は言う。人が食べられない部位を、見栄えを整えてペット側に回す。子ども向けに感じていた問題意識が、そのまま、より濃い形で存在していた。400年の酒蔵が「実は僕らも考えてた」甘酒に目をつけたのは、犬より前だった。齊藤氏はもともと、世界の子ども向けのスーパーフードとして甘酒を捉えていた。米と米麹と水、そして発酵の技術だけで作れる。原料が単純なぶん、米が穫れない地域でも別の穀物で応用できるかもしれない。そこまで考えるほど、構造の単純さに惹かれていたという。犬に向き直ったとき、最初に検討したのはドリンクではなくプラントベースのペットフードだった。ただ、その領域にはすでに取り組んでいる企業がある。「頑張っている人たちがすでにいるところで対決になったら、いいことをやっている同士で奪い合うことになる。それはあまり良くないなと思って」(齊藤氏)。フードの棚を奪うのではなく、まだ誰も置いていない棚を作る。そう考えたときに残ったのがドリンクだった。実はペットの世界に「ドリンク」というカテゴリはほとんど存在しない。裏を返せば、フードを買い替えてもらう必要がなく、いま使っている製品に一本足すだけで済む。既存プレイヤーと競合しないという意味でも、この立ち位置は合理的だった。製造を託す相手として選んだのが福光屋である。共同創業者の先輩が同社の代表と友人だった、という縁でつながった。ただ、話を持っていくこと自体に齊藤氏は身構えていた。ペットフードを本当に扱ってくれるのか?「400年の歴史のところでそんなことを言ったら怒られるんじゃないかと思いながら言ったんです。そうしたら今の社長が『実はそれ、僕らも考えてたんだよ』と」(齊藤氏)。コロナ禍があり、人手も足りない。さらにまったく違う世界だから難しい。そう考えて止まっていた構想だったという。返ってきたのは「やるなら一緒にやろうよ」だった。相性の良さは顧客側にもあった。福光屋は二子玉川と六本木に直営店を構え、コア顧客には愛犬家が多い。自分たちが飲む甘酒を薄めて犬に与えていた人が、すでにいたそうだ。需要は仮説ではなく、蔵の店頭にすでにあったことになる。そしてこの提携は、国内向けの信用のためだけではない。「日本だと『甘酒ね』で終わってしまう。ペットドリンクって全体で見ればすごくニッチなので、世界から見ないと面白くない。最初からもう世界を見よう、と。しかも世界だからこそ差別化できると思ったので、そのときに400年の歴史はめちゃくちゃ響くなと」(齊藤氏)。ペットフードは食品ではなく「雑貨」誤解のないように付け加えると、齊藤氏は既存のドライフードを否定していない。いわゆる「残飯」を与えていた時代に比べれば栄養設計は格段に良くなり、それによってペット寿命も伸びたそうだ。問題はその次のフェーズだ。長く生きればさまざまな疾患が出る。ならば食を変えれば疾患の出方も変わるのではないか。寿命そのものが変わる可能性すらあるのではないか。「ペットは本当に大事な家族の存在なんです。子どもから老人になるまでずっと介護が必要な、弱い存在でもある。しかもペットって、ある意味人間のエゴじゃないですか。だけどすごく癒してくれる存在でもある。だからこそ人間がちゃんと見なきゃいけない」(齊藤氏)。販路の作り方も、いわゆる D2C の定石とは違う。広告を回すのではなく、イベントに出続けるという選択をしている。「ドリンク?」という反応を対面で一つずつ崩していく、人海戦術だ。「首都圏のイベントにはほとんど出ています。常連さんもかなり増えて、その人たちが『これ知らないの? 水しか飲ませないの?』って紹介してくれるんですよ」(齊藤氏)。成長の主戦場は海外に置いている。世界一の成熟市場であるアメリカは最終目標地点だが、満たされた市場で新カテゴリを立ち上げる難しさは肌で感じている、と齊藤氏は言う。その点インドは成長市場で、常識が固まっていない分だけ新しいものが受け入れられやすい。売り手側も「新しいものを広めた」ことがステータスになるため、未知のカテゴリを持ち込む側にとっては追い風になるという読みだ。やろうとしているのは製品を売ることではなく、カテゴリを作ることだ。ドリンクという選択肢が当たり前になるまでに5年から6年かかると齊藤氏は見ている。400年の蔵と組んだ一本が数年後に当たり前の光景となるのか。とても興味深い話題だった。