この連載は、アーリーステージのスタートアップや投資家たちが毎月集う、クローズドなイベント「Monthly Pitch」の現場で出会った起業家を取り上げるシリーズです。登壇希望の方はこちらから 国土交通省の自動車駐車場年報 […]この連載は、アーリーステージのスタートアップや投資家たちが毎月集う、クローズドなイベント「Monthly Pitch」の現場で出会った起業家を取り上げるシリーズです。登壇希望の方はこちらから国土交通省の自動車駐車場年報によれば、全国の駐車場の総供用台数は約568万台(2025年3月末時点)。このうち、届出駐車場はおよそ199万台を占める。それだけの規模がありながら、利用体験は数十年ほとんど変わっていない。入庫時に駐車券を取り、出庫時は精算機の前で小銭を探す。交通系 IC カードや ETC が普及する一方、駐車場では現在も、精算機の操作や現金の取り扱いを必要とする施設が少なくない。この構造に挑んでいるのが、Smooth 代表取締役 CEO の泉房之介氏だ。2026年5月、同社の決済システムを導入したコインパーキングが東京・板橋区で稼働を始めた。その詳しい仕組みやビジネスなど、Monthly Pitch に登壇した泉氏に詳しく話を聞いた。入って、出るだけSmooth が開発・提供する「Smooth Pay」は、駐車場に設置したカメラと決済システムをつなぐモビリティ自動決済サービスだ。ナンバープレートの自動認識カメラ、決済システム、ユーザー認証基盤を統合し、駐車場の運営事業者にサービス基盤として提供する。利用者が操作するのは初回だけ。場内の看板にある QR コードから LINE に遷移し、友だち追加してカード情報と車番を登録する。所要時間は1〜2分、アプリのダウンロードは要らない。2回目以降は、入庫時にカメラがナンバーを読み取り、出庫と同時に決済が完了する。利用金額や駐車時間、領収書のダウンロードリンクは LINE に届く。「交通系 IC カードから始まって、ETC で車載器にカードを入れれば自動化されるようになった。その次の段階として、何も追加しなくても車自体が決済の認証媒体になる世界を目指しています」(泉氏)。一方、駐車場に置くのはカメラのみだ。各車室にポールを立てて区画ごとに読み取る方式と、出入口に置いて入出庫する車をまとめて捉える方式の2種類があり、駐車場の規模や形状で使い分ける。出入口のゲートバーも、タイヤの下からせり上がるロック板も置かない。それでは料金を払わずに出ていく車が増えないのか?これは導入時によく聞かれる懸念だという。泉氏は、カメラ式の未精算はむしろゲート式より少ないと説明する。機器は0円、収益はレベニューシェアSmooth のサービスでは、カメラも決済システムも0円で事業者に貸与するため、従来は精算機をリースで抱え込んでいた駐車場が、工事費だけで新設できる。現金回収や釣り銭の補充といった運用負担、現金を置くことによる防犯リスクも同時に消える。同社の収益モデルは現在、売上が立った場合にのみ受け取る10〜15%のレベニューシェア(物件により変動)なのだそうだ。「僕たちはあくまでも駐車場の運営会社ではなく、運営会社さんに機器をお貸しして決済のフィーをいただくペイメントの会社です」(泉氏)。1号物件となった板橋区のコインパーキングも、土地はサブリース事業者の GTR が運営し、Smooth は決済プラットフォームの提供と技術支援に徹する。泉氏によると、次は静岡での稼働が控えているそうだ。地域を局所的に絞ってドミナントを築く方針で、静岡を選んだのは泉氏と CTO の福原陸翔氏の地元だからだという。2026年7月には、TeamMake Capital と寺田倉庫をリード投資家とするシードラウンドを実施し、プレシードからの累計調達額が6,000万円になったと発表した。駐車場から精算機が消えないワケそもそも、なぜこの領域は変わってこなかったのか。泉氏の説明によると、土地の限られた日本では駐車場の需要が消えることはなく、目的地の近くで空いている場所が見つかれば、決済方法を理由に選び直すこともない。ある種の強制力が働くため、事業者が決済手段を変える必要に駆られてこなかった。海外にも、カメラでナンバーを読み取って入庫を記録し、QR コードやカードで精算する駐車場はある。泉氏は台湾や韓国でそうした方式を目にし、日本との違いを感じたという。泉氏は交換留学先のスウェーデンでその差を体感したという。路上に停めてスマホで駐車を開始する方式が定着しており、区画のゾーンコードと車のナンバーをアプリに入力すれば、延長も早めの終了も手元で操作できる。取り締まる側もナンバーを読み取って有効な駐車かを判別する。国内でも潮目は変わりつつある。タイムズ24は2025年11月、新設する時間貸駐車場を原則としてキャッシュレス決済専用とし、既存の駐車場も順次切り替えていくと発表した。目指すのは「自動運転レディの街」のインフラ泉氏のキャリアはなかなか興味深い。能楽の家系に生まれ、3歳から13歳まで子役として舞台に立った。そのまま能楽師になる道も考えていたが、コロナ禍で公演の機会が減り、この道で続けるのは厳しいと感じるようになる。中学3年で手に取ったのが、のちに所属することになる慶應 SFC の琴坂将広氏が YJ キャピタル(当時)の堀新一郎氏らと著したスタートアップの本だった。高校1年で福岡の CVC にインターンとして飛び込み、その後は NFT ホルダー向けのオーダーメイドアパレル、MR グラスで能楽の鑑賞体験を拡張するプロジェクトなど、起業につながりそうなアイデアの試行錯誤を重ねる。転機は、駐車場 DX を手がける企業が運営事業者そのものを買収するという、米 Metropolis の存在を知ったこと。2017年創業の同社は、2023年10月に SP Plus を約15億ドルで買収する契約を結び、2024年5月にはその買収を完了した。買収完了時点で、同社は4,000拠点超を抱える北米最大の駐車場ネットワークになった。日本の駐車場の DX の遅れと、米国ですでに成立していたビジネスモデルとが、そこで重なった。彼は2025年に大学へ入学し、5月に法人登記、6月に最初の資金調達。チームは約10名で、泉氏以外は全員エンジニアだ。「ものを作れる人が主役で、そこに場所とお金と人を用意する。リソースを整えるのが、シードラウンドにいる起業家の仕事だと思っています」(泉氏)。今、まさに世界では自動運転が社会を変えつつある。カリフォルニア公益事業委員会(CPUC)への報告データを分析した研究によれば、Waymo の走行距離の4割超を、乗客を乗せていない走行が占めている状況になっているそうだ。自動運転車が普及すれば、乗降や待機、充電、駐車の場所をどう確保するかが都市側の課題になる。だが、無人でも自動で決済が完了する OS が整えばその状況は大きく変わるだろう。Smooth が描くのは、来たる自動運転時代のインフラになることだ。「オフィスから出る時間がないというとき、車にテキストで指示を送れば、ドライブスルーに行って、そこで買い物を済ませて帰ってきてくれる。そんな決済シーンをすべて、僕らが担っていきたいです」(泉氏)。ガソリンスタンド、EV ステーション、ドライブスルー、ETC 非対応の有料道路。車が介在する決済の現場は、全国各地に広がっている。今後は、駐車場以外へもサービスを展開していく方針だ。