ISS(国際宇宙ステーション)の運用終了に向け、ロスコスモスとNASAによる共同技術監査が始まった。2030年頃に予定される制御軌道離脱への準備が進む一方、米露両国が描くその後の有人宇宙活動の姿は大きく異なる。ロシアはISSのモジュールを活用して新たなステーションへ切れ目なく移行する計画だが、米国は民間ステーションの開発遅延によって有人活動が途切れるリスクに直面している。■軌道離脱に向けた共同監査と米露の対照的な未来人類の有人宇宙飛行で最も長く続いてきた国際協力が、日曜日、正式な運用終了手続きに入った。その後、両国は大きく異なる未来へ向かうことになる。ロスコスモスとNASAの専門家は、ISSの重要システムに関する共同技術監査を開始した。2030年頃に太平洋への制御落下で完了するとみられる軌道離脱に備え、ステーションが所定の手順を実行できる状態にあるかを確認する初の体系的な評価である。しかし、ロシア側の計画には、これまでの報道や両機関の説明で前面に出されてこなかった要素が含まれている。ロシアはISSを単に退役させるのではなく、その一部を使って新たな宇宙ステーションを同時に構築しようとしている。この方向性の違いは、共同監査が両国にとって持つ意味を大きく変える。米国にとっては、確実な後継施設がないままISSから計画的に撤退するための第一歩となる。2026年6月の米政府説明責任局(GAO)の報告書は、民間の後継ステーションが予定どおり完成しなければ、NASAが地球低軌道での継続的な有人活動に空白期間が生じる重大なリスクに直面すると指摘している。一方、ロシアにとって今回の監査は、すでに設計している移行計画を実行に移す最初の正式な段階である。ロシア側のISSモジュール3基は2030年にISSから分離し、新たなロシア軌道ステーション(ROS)の中核として自律飛行を続ける予定だ。分離時にISSで活動している宇宙飛行士が、そのままROSの最初の乗組員となる。ロスコスモスの宇宙飛行士訓練センター所長、オレグ・コノネンコ氏は3月、TASS通信に対し、「ISSは2030年まで運用を続ける可能性が高く、軌道離脱は2030年に始まるだろう」と語った。さらに、「最初のROSモジュールはISSのロシア区画にドッキングする。その後、ROSモジュールの初期組み立てを行い、ISSの運用寿命が終わる頃に、この一体化したモジュール群を分離する。これにより継続性を維持し、ロシアの有人宇宙飛行が途切れることはない」と説明した。コノネンコ氏の声明が示しているのは、単なる退役ではなく、計画的な引き継ぎである。■退役ではなく計画的な引き継ぎとなるロシアの撤退バカノフ氏とコノネンコ氏が2026年に明らかにしたロシアのISS後の計画は、単に新ステーションを建設するという話にとどまらない。2028年には、既存のプリチャルモジュールに代わって、新たな汎用ノードモジュールがISSにドッキングする。プリチャルは別途、軌道離脱させる。2030年には、ISSの最終軌道離脱手順と並行して、ロシア側のモジュール3基がISSから分離し、ズヴェズダのスラスターを使って初期の軌道維持を行いながら自律飛行を続ける。このモジュール群がROSの中核となり、ステーション全体は2034年までに完成する見通しだ。この方法であれば、ISSからROSへ移るロシアの宇宙飛行士に空白期間は生じない。接続された一方の構造物から、もう一方へ船内を移動することになるからだ。モジュールの分離時にISSで活動している乗組員が、そのまま最初のROS乗組員となる。新たな要員の募集も、別の資格取得も、有人活動の中断も必要ない。ロシアの撤退に継続性があるのは、撤退そのものが次の有人活動につながるよう設計されているためである。ロスコスモスのドミトリー・バカノフ総裁は、バイコヌール宇宙基地からの最初のROSモジュール打ち上げが2028年に予定されていると確認している。クリカレフ氏も、ISSの運用終了までNASAとの共同作業を続けると確認した。いずれも8月9日付の監査に関する報告で伝えられた。■監査の具体的な内容コノネンコ氏は、日曜日に公表されたTASS通信への声明で、監査の対象範囲を説明した。同氏は2025年11月から所長代行を務め、2026年3月にユーリ・ガガーリン宇宙飛行士訓練センター所長へ正式に任命された。5回のミッションで計1,111日を宇宙で過ごした世界記録の保持者でもある。専門家は現在、軌道離脱作業の開始に先立ち、ロシア区画と米国区画の主要システムが正常に機能するかを分析している。コノネンコ氏によると、この作業にはすべての機器が完全に機能することに加え、両機関の役割分担を明確に定めることが必要になる。共同監査では、こうした要件を具体的な運用計画へ落とし込む作業が進められている。この作業の基礎となる2つの二国間議定書は、すでに締結されている。2025年10月、ロスコスモスとNASAは、軌道離脱における技術的な役割と責任範囲を定める議定書に署名した。2026年2月には、ソフトウェアと数理モデルの更新を扱う2つ目の議定書を締結した。これにより、ISSが降下する際、ロシア区画を通常時と緊急時の両方のシナリオに沿って運用できるようにする。共同作業部会はすでに、デブリの落下予測範囲、推進剤の消費量、軌道離脱に必要な重要システムの一覧を算出している。■2つのフェーズと2カ国による435トンの軌道離脱人類史上最大の計画的な制御再突入となるISSの軌道離脱は、2つの明確なフェーズに分けて実施される。2024年7月に行われた米国軌道離脱機(USDV)の技術説明と、その後の計画で、この枠組みが示されている。2028年初めから半ばにかけて、ロシアのプログレス補給船2機とISSのズヴェズダ・サービスモジュールのスラスターを使い、ステーションの軌道を高度約420km(261マイル)から約330km(205マイル)まで徐々に下げ始める。この段階でロシアは、推進と機体の安定化を担う。プログレス補給船が姿勢を制御し、ロシア側のスラスターで約2年半かけて計画的に高度を下げる。ただし、この推進システムを稼働させるには、推進剤をあらかじめISSへ運んでおかなければならない。ズヴェズダとザーリャ機能貨物ブロックのタンクには、2028年までの数年間に複数回のプログレス補給ミッションを通じて、十分な推進剤を蓄えておく必要がある。必要量を確保できなければ、日程は遅れる。この事前配備は付随的な条件ではなく、2年半に及ぶ軌道離脱手順全体を支える物流上の基盤である。最終段階を担うのは米国側だ。NASAは2029年半ば、米国軌道離脱機(USDV)を打ち上げる。USDVはSpaceXのDragon宇宙船を大幅に改造したもので、SpaceXのDragonミッション管理担当ディレクター、サラ・ウォーカー氏によれば、トランク部分だけでも「それ自体がほぼ宇宙船」といえる規模になる。USDVは46基のDracoスラスターを搭載する。うち16基は姿勢制御用、30基は軌道変更用である。トランクは標準的なDragonの2倍の長さで、標準型の6倍に当たる約16,000kg(35,274ポンド)のハイパーゴリック推進剤を搭載する。発電能力も標準型の3〜4倍となる。USDVはシステム確認のため、ISSのノード2前方ポートにドッキングする。その後はISSの軌道が自然に低下するのを待つ。最後の乗組員がISSを離れ、さらに約6カ月にわたって大気抵抗による軌道低下が進んだ後、USDVは22〜26基のDracoスラスターを同時に噴射する。これにより約1万ニュートンの推力を発生させ、57m/s(187フィート/秒、約205km/h)の速度変化を与える。この1回の噴射で、435トン(958,000ポンド)のISSを終末再突入軌道へ投入する。目標となるのは南太平洋上に設定された全長2,000km(1,243マイル)の回廊である。構造トラスや高密度の圧力容器など、大気圏で燃え尽きずに残ったデブリは、最も近い陸地から約2,688km(1,670マイル)離れた海洋到達不能極、ポイント・ネモ付近に落下する。USDVは初飛行で確実に成功しなければならない。435トンの宇宙ステーションを対象とする以上、事前の試験飛行はできない。緊急時に備え、ロシア区画にはプログレス補給船2機をドッキングさせたままにする。USDVが機能しなかった場合、ロシア側のスラスターで緊急軌道離脱を実行できるが、精度と余裕は低下する。■USDVがSpaceXのFalcon 9で打ち上げられない理由USDVの技術要件は、ミッション全体に影響する打ち上げ上の課題を生み出している。約16,000kg(35,274ポンド)の推進剤を含めた総質量は約35,000kg(77,162ポンド)に達し、標準的なFalcon 9がISSの軌道傾斜角へ投入できる重量を超える。NASAのISSプログラムマネジャー、ダナ・ワイゲル氏は2024年7月の説明会で、NASAがミッションの少なくとも3年前までに、USDV用の大型打ち上げロケットを別途調達する必要があると説明した。候補は最近になって絞られた。候補の一つだったBlue OriginのNew Glennは、2026年5月28日、ケープカナベラル宇宙軍施設の第36発射施設で実施されたスタティックファイア試験中の壊滅的な爆発で失われた。第1段のBE-4エンジン7基に点火した際、ロケットが火球に包まれて機体が破壊され、発射台も深刻な損傷を受けた。ケープカナベラルの発射台上で爆発事故が起きたのは、2016年のFalcon 9の事故以来だとされる。New Glennの打ち上げ運用は、調査と発射台の修復が終わるまで停止されている。このため、Falcon HeavyとULAのVulcan Centaurが主な候補として残る。ただし、標準的な軌道傾斜角28.5度の地球低軌道へ投入する場合と比べ、ISSの軌道傾斜角においてVulcan Centaurがどの程度の打ち上げ能力を持つかは、NASAの大型ロケット調達で確認する必要がある。記事公開時点で、NASAは具体的な調達方法を公表していない。NASAは2024年6月、USDVの開発についてSpaceXと8億4,300万ドル(約1,340億円、1ドル=159円換算)の契約を結んだ。打ち上げロケットの調達費用を含む計画全体の費用は、約15億ドル(約2,385億円、同レート換算)と見積もられている。■監査対象となる老朽化した構造今回の監査は、問題のない新しい施設を対象にするわけではない。第1フェーズの軌道降下でスラスターが重要な役割を担うズヴェズダ・サービスモジュールでは、PrK移送トンネルに生じた微細な亀裂が長年の問題となっている。PrKは、ロシア側のドッキングポートとズヴェズダの主要部分をつなぐ前室である。亀裂は2019年に初めて検出され、継続的な空気漏れを引き起こした。その後、数年間にわたりGermetall-1シーラントを使った補修が繰り返されてきた。2026年6月のSpaceNewsの報道によると、亀裂が生じる根本原因は依然として解明されていない。NASAは2026年初め、追加の密閉作業によって空気漏れが止まったと確認した。しかし同年6月には新たな漏れが発生し、NASAは予防措置として、乗組員5人に対し、ロシアの宇宙飛行士が状況を調査している間、ドッキング中のSpaceX Crew Dragonへ退避するよう指示した。6月5日に出された退避指示は、ロスコスモスが直ちに修理せず、まず測定する方針を選んだ後、数時間で解除された。ロスコスモスはその後、該当箇所を再び密閉した。一方、2026年4月に開かれたISS諮問委員会の会合の時点でも、亀裂の根本原因は調査中だった。何年にもわたって補修しているにもかかわらず、PrKの構造健全性が低下し続ける理由を一つのメカニズムで説明するには至っていない。N