ソニーのエントリー向けワイヤレスヘッドホン「WH-CH520」は上位モデル「WH-CH720N」と同じサイズの30mmドライバーを採用しながら、アクティブノイズキャンセリング(ANC)回路を省くことで、最大50時間のバッテリー駆動を実現している。購入にあたっては、この設計上の割り切りが自分の用途に合うかを見極める必要がある。■50時間再生を実現する理由WH-CH520は、アクティブノイズキャンセリング(ANC)用のプロセッサーを搭載していない。上位モデルのWH-CH720Nでは、ANCを有効にするとバッテリー駆動時間が約50時間から35時間へと30%短くなる。これは、その大部分がANCに必要な専用DSPチップとマイクアレイの消費電力によるものだ。こうした回路を設計から外すことで、消費電力を抑えられるだけでなく、部品コストの一部も削減できる。上位モデルよりも低価格で50時間の再生が可能なのは、革新的なバッテリー技術や電力管理システムによるものではなく、消費電力の大きい機能を意図的に省き、その分をバッテリー容量に振り向けた結果である。■スペックの詳細WH-CH520(8月11日時点の実売価格:約6,000円~)は、30mmダイナミックドライバーとBluetooth 5.2を採用している。上位モデルとなるWH-CH720N(8月11日時点の実売価格:約14,000円~)も同じサイズの30mmドライバーを搭載しており、上位モデルの価格差は、より大型または高度なトランスデューサーではなく、ANCプロセッサーに充てられている。一般的な音量で再生する場合、両モデルの30mmドライバーは比較的抑えられた振幅で動作するため、この価格帯における効率的な電力利用に寄与している。WH-CH520はAACとSBCの各コーデックに対応する。Bluetooth 5.2では、SBCより低い消費電力で高音質を提供することを目指したLE Audio規格とLC3コーデックが導入されたが、WH-CH520はLC3には対応せず、AACとSBCを使用する。そのため、Bluetooth 5.2による通信範囲や接続安定性の向上は期待できる一方、LC3に固有のバッテリー効率向上は得られない。スマートフォンやノートPCと組み合わせる多くの利用者にとって、320kbpsのAACはストリーミング再生に聴感上十分な品質であり、SBCへのフォールバックによって幅広いBluetooth機器との互換性も確保される。また、圧縮音源を分析し、MP3やAACによる圧縮で失われた高音域を予測的に補完するソニーの「DSEE(Digital Sound Enhancement Engine)」を搭載している。ただし、WH-CH520に搭載されているのは、2006年に導入されたAI非搭載の基本版DSEEだ。WH-1000XM4、WH-1000XM5、WH-1000XM6に搭載され、リアルタイムでアップスケーリングを行うAI活用型の「DSEE Extreme」は、より高度な別のシステムであり、WH-CH520には搭載されていない。独立系レビュアーのテストでは、CH520のDSEEは圧縮率の高いファイルで高音域の存在感をわずかに改善するとされている。オーディオ評論家からは、劇的な効果というより「あるとうれしい」機能と評価されている。■WH-CH520とWH-CH720Nの比較8月11日時点で、編集部調べの国内のWH-CH520の実勢価格は約6,000円~、WH-CH720Nは約14,000円~。8,000円の価格差で得られる主な機能は、ソニーの「統合プロセッサーV1」によるアクティブノイズキャンセリング、各イヤーカップに追加された2つ目のマイク、そしてバッテリーが切れた後でも使用できる3.5mm有線接続だ。CH720Nのバッテリー駆動時間は、ANCをオンにした状態で35時間となり、CH520の50時間より短い。両モデルとも30mmダイナミックドライバーを使用している。自宅、図書館、小規模なオフィスなど比較的静かな環境で利用し、充電せずに1日中または数日間使えるバッテリーを必要とする場合や、55ドルの価格差を重視する場合には、CH520が適している。両モデルとも、2台の機器に同時接続できるマルチポイントBluetoothペアリング、3分間の充電で最大90分再生できるUSB-C急速充電、イコライザーの調整や360 Reality Audioを利用できるソニーの「Headphones Connect」アプリに対応している。一方、騒音の大きい交通機関で通勤する人、周囲の音が気になるオープンオフィスで働く人、有線接続も利用したい人にはCH720Nが適している。Tom's Guideは、WH-CH720NのANCについて、同価格帯として堅実な性能だと評価している。周囲の騒音を抑えることが最優先なら、55ドルの追加負担は目的に合っている。そうでなければ、ほとんど使わない機能に料金を支払うことになる。■WH-CH520の弱点WH-CH520を5点満点中4.5点と評価したTechRadarのレビューでは、シングルマイクについて「機能はする」ものの、「音量が小さく、特に明瞭というわけではない」と指摘している。Tom's Guideのレビューでも同様の制約が挙げられ、ノイズキャンセリングがないことと並んで、「音が薄く甲高いマイク」が短所とされている。静かな部屋で1人で話すビデオ通話であれば、マイクは実用になる。しかし、背景に騒音があるハイブリッド会議や、通話の明瞭さが重要となる在宅勤務用のメインヘッドセットとして使う場合は、専用のUSBヘッドセットや、CH720Nのようなデュアルマイク搭載ヘッドホンの方が適している。147gという軽さを実現するオンイヤー型のデザインにも、快適性の限界がある。オンイヤー型ヘッドホンは耳全体を覆わず、耳の上に載せる構造のため、耳の外側に圧力が集中する。眼鏡をかけている人や、オンイヤー型の圧迫感を不快に感じる人の場合、CH520を1~2時間続けて装着すると疲労を感じることがある。ある独立系レビューでは、実際の使用で約2時間が経過すると、不快感のため休憩が必要になったとしている。一方、オンイヤー型が耳に合う利用者からは、問題なく長時間使えるとの報告もある。快適性は製品設計だけでなく、耳の形にも左右される。湿気への弱さも指摘されている。iFixitの修理情報では、軽い雨や汗に触れただけでも回路基板が故障する可能性があるとしている。IPまたはIPXの耐水性能等級は取得していない。ジムや湿度の高い環境での屋外運動には適しておらず、そうした用途では少なくともIPX4相当の耐水性能を備えたヘッドホンの方が適切だろう。もう一つの欠点は、WH-CH520を耳から外しても自動で一時停止しないことだ。通話中や音楽再生中に外して机の上に置いても、手動で一時停止するか電源を切るまで再生が続き、その間もバッテリーを消費する。長いバッテリー駆動時間を特徴とする製品としては小さな使い勝手上の制約だが、把握しておく必要がある。■ソフトウェアの使い勝手ソニーの「Headphones Connect」アプリはiOSとAndroid向けに提供されている。アプリでは、「Clear Bass」スライダーや周波数調整画面を使ったグラフィックイコライザーの設定、DSEEのオン・オフ、360 Reality Audioの空間オーディオ機能へのアクセスが可能だ。360 Reality Audioは、TidalやAmazon Music Unlimitedなどのストリーミングサービスでサポートされている。アプリからファームウェアを更新することもできる。一部のソニー製ヘッドホンの長期利用者からは、旧モデルに関するアプリ更新の頻度や、特定バージョンのアプリによって、それまで動作していた機能が使えなくなったことへの不満が報告されている。ただし、こうした懸念はWH-CH520そのものより、ソニーのイヤホン製品で多く報告されている。AndroidユーザーはGoogle Fast Pairを利用し、「デバイスを探す」ネットワークを通じてヘッドホンの位置を確認できる。自宅内でヘッドホンを置き忘れた場合などに役立つ。Swift Pairを使えば、Windows 10以降を搭載したPCとワンタップでBluetoothペアリングできる。■WH-CH520が適している人38ドルのWH-CH520は、1日の大半を静かな環境で過ごし、頻繁に充電することなく使えるヘッドホンを必要とする学生やリモートワーカーに適している。1日約4時間、週5日使用しても、合計20時間であり、定格50時間の範囲に十分収まる。移動中にヘッドホンを使用するものの、ANCが必要になるほど長時間または騒音の大きい経路を利用しない通勤・通学者や旅行者にも、長いバッテリー駆動時間は利点となる。音楽やポッドキャストをストリーミングで楽しむカジュアルなリスナーへの贈り物としても、ソニーのブランド、50時間のバッテリー駆動時間、38ドルという価格の組み合わせには説得力がある。22件の専門家レビューを集計した評価では、WH-CH520は100点満点中81点となっている。一方、湿気に触れる可能性があるジムや屋外での運動、通話品質を最優先する在宅勤務用のメインヘッドセット、ANCが必要となる騒音の大きい交通機関での通勤、オンイヤー型の圧迫感が苦手な人には適していない。主な仕様は、30mmダイナミックドライバー、最大50時間のバッテリー駆動、3分間の充電で最大90分再生できる急速充電、AACおよびSBC対応のBluetooth 5.2、重量147gである。アクティブノイズキャンセリングには対応していない。■注目ポイントQ&A●ソニーのWH-CH520にはノイズキャンセリング機能がありますか?また、この価格帯で重要ですか?いいえ、WH-CH520にはアクティブノイズキャンセリング(ANC)は搭載されていません。ホームオフィス、図書館、周囲に多少の環境音があるカフェなど、比較的静かな場所で使う場合、ANCがないことは大きな制約にはなりません。ANCは、航空機のエンジン、騒音の大きい交通機関、オープンオフィスの空調設備など、低周波で連続する騒音を抑える場合に特に役立ちます。こうした環境で日常的に使用するなら、約93ドル(約1万4,800円、1ドル=159円換算)のWH-CH720Nを選ぶことで、ANC使用時のバッテリー駆動時間が15時間短くなる代わりに、ソニーのANCシステムを利用できます。そうした環境で使わないのであれば、利用頻度の低い機能に55ドル(約8,700円)を支払うことになります。●なぜWH-CH520は38ドルで50時間のバッテリー駆動を実現できるのですか?主な理由は、ANC回路を搭載していないことです。WH-CH720Nでは、ソニーの統合プロセッサーV1と関連するマイクアレイを使ったANCを有効にすると、バッテリー駆動時間が50時間から35時間へと30%短くなります。このプロセッサーと関連回路を設計から外すことで、消費電力と製造コストの一部を削減できます。WH-CH520とWH-CH720Nは、どちらも同じサイズの30mmダイナミックドライバーを使用しています。そのため、価格差はドライバーの大きさではなく、主にANCの有無を反映しています。●WH-CH520はワークアウトやジムでの使用に適していますか?お勧めできません。WH-CH520にはIPまたはIPXの耐水性能等級がなく、iFixitの修理情報では、軽い汗や雨に触れただけでも回路基板が故障する可能性があるとされています。運動時に使用する場合は、水しぶきや汗への耐性を備えた、少なくともIPX4相当の製品が適しています。WH-CH520はバッテリー駆動時間の長さと軽量設計が魅力ですが、湿気への弱さから、ジム用途には向いていません。元記事: Sony