Blackmagic Designは2026年8月10日、Cinema Camera 6K向けの無償ファームウェアアップデート「Blackmagic Camera 10.2.2」をリリースした。これにより、2023年の登場時からセンサーに組み込まれていた位相差検出画素を利用したオートフォーカスが、ようやく使用可能になった。最大10分のプリレコード、Blackmagic Cloudのストリームルーティング、4チャンネルオーディオ録音も追加され、Cinema Camera 6Kの主要なソフトウェア機能がPYXIS 6Kに追いつく形となる。■位相差AFの実装に3年を要した理由Cinema Camera 6Kのオートフォーカスに関する制約は、ハードウェアの問題ではなかった。公式仕様によれば、2023年9月以降に出荷されたCinema Camera 6Kには、撮像面に位相差検出画素を組み込んだフルサイズ6Kベイヤーセンサーが搭載されている。これまで欠けていたのは、その画素から情報を読み取り、位相差を計算し、レンズを動かすモーター制御命令へ変換するファームウェアだった。位相差AFは、Blackmagic製カメラが従来採用していたコントラスト検出方式とは、根本的に仕組みが異なる。コントラスト検出方式では、レンズを動かしながら画像の鮮明さを測定し、コントラストが最大になる位置を探す。情報を得るために最初にレンズを動かす必要があるため、ピント位置を前後に探る「ハンチング」が起こりやすく、Cinema Camera 6KのAFは実用上、マニュアルフォーカスを補助する機能に近かった。これに対し、位相差検出方式では、レンズ開口部のわずかに異なる角度から光を受ける画素のペアを読み取る。2つの情報の横方向のずれ、すなわち位相差から、レンズを動かすべき方向と距離の両方を、レンズが動き始める前に計算できる。ピント位置を繰り返し探すのではなく、一度の測定で合焦位置を判断できるため、ソニー、キヤノン、ニコンのミラーレスカメラが長年提供してきたような、素早く安定したAF動作が可能になる。Lマウントに対応するファームウェア処理系を開発し、コンティニュアスAFや顔検出向けに調整したうえで、Cinema Camera 6K固有のセンサーおよび処理アーキテクチャ上で検証するのは、容易な作業ではない。Blackmagic Designのテクニカルセールスディレクター、Craig Heffernan氏はNAB 2025でCineDに対し、Cinema Camera 6KとPYXIS 6Kが同じフルサイズ6Kベイヤーセンサーを採用していることを確認した。この共通性により、最終的には一方の機種向けに開発した実装をもう一方へ展開できたが、Blackmagicは両機種で同時に開発するのではなく、1機種ずつ作業を進めた。開発の詳しい経緯については、CineDもCamera 10.2.2に関する記事で報じている。■PYXIS 6Kでの検証を経た段階的なリリースBlackmagicはNAB 2025前後に、テスト版ファームウェアを使用してCinema Camera 6KのPDAFを初めて披露した。その後、PYXIS 6K向けの専用AFテスト版が2026年3月に提供され、同年6月のBlackmagic Camera 10.2で正式にサポートされる機能となった。今回のBlackmagic Camera 10.2.2では、同じ実装がCinema Camera 6Kにも提供された。この順序は、Cinema Camera 6Kユーザーにとって重要な意味を持つ。今回追加されたPDAFは、ベータ版でも初期段階の実装でもない。Blackmagicはテスト版の提供期間に加え、Blackmagic Camera 10.2のリリース後の2カ月間もPYXIS 6K上で実地運用を重ね、その後、正式版ファームウェアとしてCinema Camera 6Kへ展開した。業務撮影で実験的なファームウェアを使用することに慎重だったユーザーも、正式提供された実装を最初から利用できる。Newsshooterが掲載した変更履歴によると、Blackmagic Camera 10.2.2ではCinema Camera 6Kに7つのAF関連機能が追加された。PDAF、コンティニュアスAF、顔検出、被写体検出、AFトランジション速度の調整、AFモード切り替えのショートカットキー割り当て、フォーカスボタンを押している間だけコンティニュアスAFを一時停止する機能である。なかでもAFトランジション速度の調整は、撮影上注目すべき機能だ。フォーカスを別の被写体へ移す速度を選択できるため、急激に切り替えるのではなく、映像表現に合った滑らかなフォーカス送りが可能になる。■最大10分のプリレコード機能Blackmagic Camera 10.2.2におけるもう1つの大きな追加機能が、5分から10分まで設定できるプリレコードだ。Cinema Camera 6Kは映像をローリングバッファへ継続的に記録し、撮影者が録画ボタンを押すと、設定した時間分の映像を新しいクリップの先頭へ自動的に追加する。設定した範囲の映像だけが保存されるため、常時録画する場合に比べて記録メディアの消費も抑えられる。この機能は、2025年12月のBlackmagic Camera 10.0以降、URSA Broadcast G2と2機種のPYXISで利用できた。今回、Cinema Camera 6Kにも追加されたことで、Blackmagicの代表的なシネマカメラの1つでも利用可能になった。ドキュメンタリー、ニュース、ライブイベントなどは、決定的な瞬間が前触れなく訪れやすい撮影分野だ。結婚式、抗議活動、野生動物との遭遇、撮り直せないインタビューの一瞬などでは、あらかじめ録画を始めていなければ、二度と取り戻せない映像を逃す可能性がある。プリレコードは、こうした撮り逃しを防ぐための機能となる。■クラウド連携と4チャンネルオーディオBlackmagic Camera 10.2.2では、Cinema Camera 6KにBlackmagic Cloudのストリームルーティング機能も追加された。カメラと配信先の間に別のハードウェアを挟むことなく、Blackmagicのクラウド基盤を通じて、ライブ映像をスタジオの制作環境へ直接送ったり、複数のストリーミングプラットフォームへ同時配信したりできる。これはPYXIS 6Kに2026年6月に追加された機能と同等である。Blackmagicの製品環境をすでに使用している単独撮影者や小規模クルーは、カラーグレーディング用のBRAWをカメラ内部に記録しながら、同じカメラをライブ配信の映像ソースとしても利用できるようになる。4チャンネルオーディオ録音も追加され、Cinema Camera 6Kで従来利用できたトラック数は2倍になった。4つのチャンネルは、1つの映像ファイル内に同期した状態で記録される。Blackmagicはこの機能を、出演者用マイク、ブームマイク、会場の環境音、バックアップ用音声などを独立したトラックとして1つのBRAWクリップに収録できるものと位置付けている。インタビュー、ドキュメンタリー、ライブイベントの制作では、撮影現場での音声確認とポストプロダクションへの引き継ぎを簡素化できる。■製品としてのファームウェアの価値Blackmagic Camera 10.2.2によって、Cinema Camera 6Kは、技術的には高性能ながら手動操作への依存が大きかったシネマカメラから、より幅広い撮影に対応できるプロダクションカメラへ変わった。2023年、2024年、2025年にユーザーが購入したハードウェア自体には、何も変更を加えていない。今回のアップデートにより、特に単独撮影者や小規模クルーの制作で重要となる分野では、Cinema Camera 6Kのソフトウェア機能がPYXIS 6Kとほぼ同等になった。より広く見れば、ソニー、キヤノン、DJIをはじめとする多くのカメラメーカーは、発売後のファームウェアを競争力を高める手段として重視するようになっている。製品の発売後も機能を拡張することで、その後の購入判断にも影響を与えている。Blackmagicは、2025年12月のBlackmagic Camera 10.0でプリレコードと4チャンネルオーディオを追加し、2026年6月のBlackmagic Camera 10.2ではPYXISにPDAFを追加した。2026年7月のBlackmagic Camera 10.2.1ではURSA Broadcast G2のH.264およびH.265コーデックの信頼性に関する改善を行い、今回のBlackmagic Camera 10.2.2では、これらの主要機能をCinema Camera 6Kへ展開した。こうした継続的なソフトウェア開発は、発売時点の仕様を重視するか、発売後の継続的な機能追加を重視するかという、購入者の判断にも影響を与える。発売以来PDAFを待っていたCinema Camera 6Kユーザーは、今回ようやく利用できるようになった。Blackmagic Camera 10.2.2は、Blackmagic Designから無償でダウンロードできる。■注目ポイントQ&A●Blackmagic Cinema Camera 6Kは、ソニーやキヤノンのミラーレスカメラと同じAFを備えたのですか?Blackmagic Camera 10.2.2では、ソニー、キヤノン、ニコンがミラーレスカメラで長年採用してきたものと同じ基盤技術、すなわち撮像センサーに組み込まれた位相差検出画素を利用するAFが追加されました。Cinema Camera 6Kでは、コンティニュアスAF、顔追跡、被写体追跡を利用でき、AFトランジション速度も調整できます。ただしBlackmagicは、ソニーやキヤノンのAFとの独立した直接比較結果を公表していません。実際のAF性能は、被写体、照明、レンズによっても変わります。PDAFは、Cinema Camera 6Kが従来採用していたコントラスト検出方式に比べ、ピント位置を前後に探るハンチングを抑えやすい仕組みです。ソニーの上位AFシステムと同等の安定性があるかどうかは、Blackmagic Camera 10.2.2で撮影された実地映像や検証結果が増えるにつれて明らかになるでしょう。●センサーが対応していたのなら、なぜ2023年の発売時に位相差AFを利用できなかったのですか?センサーには当初から位相差検出画素が組み込まれていました。欠けていたのは、その画素を読み取り、位相差を計算し、レンズのモーター制御命令に変換するファームウェアです。コンティニュアスAF、顔検出、被写体検出の各モードで、この処理を安定して実行する必要もありました。LマウントとCinema Camera 6K固有の処理アーキテクチャに合わせて、この処理系を開発、検証するには時間がかかりました。BlackmagicはNAB 2025前後のテスト版で機能を披露し、2026年3月のPYXIS 6K向けテスト版と、同年6月のBlackmagic Camera 10.2正式版を通じて開発を進めました。その後、2026年8月にCinema Camera 6K向けの正式版として提供しました。●プリレコードとは何ですか? シネマカメラではどのように役立ちますか?プリレコードは、カメラが通常の録画状態にないときも、バックグラウンドで映像をローリングバッファに一時記録する機能です。Cinema Camera 6Kでは最大10分間の映像を保持でき、録画ボタンを押すと、設定した時間分の映像がクリップの先頭に自動的に追加されます。ドキュメンタリー、ニュース、野生動物、ライブイベントなどでは、撮影者が録画操作をする前に重要な出来事が始まることがあります