トランプ米大統領は、国内の重要鉱物分野に対する30億ドル(約4740億円)超の新規投資を発表した。なかでも戦略的に重要なのが、レアアースを使わない「窒化鉄磁石」を開発するスタートアップへの1億5000万ドル(約237億円)の条件付き融資である。中国によるレアアース輸出規制の一部停止措置が2026年11月に期限を迎えるなか、窒化鉄が設計通り量産できれば、特定の防衛用途で中国への材料依存を構造的に回避できる可能性がある。■窒化鉄:国防総省の「迂回」策はどのように機能するかトランプ大統領は金曜日、国務省で200人以上の鉱業幹部、投資家、教育関係者、議員らを前に、国内の重要鉱物分野に対する30億ドル(約4740億円、1ドル=158円換算)超の新規投資を発表した。これは同分野に対する連邦政府の1日当たりの資本投入として過去最大となる。このパッケージのうち、全体の5%未満にすぎない1億5000万ドル(約237億円)の投資が、戦略面では最も大きな意味を持つ可能性がある。レアアースのサプライチェーンを多様化するのではなく、レアアースそのものを不要にする技術を持つミネアポリスのスタートアップに対する、国防総省からの条件付き融資である。そのスタートアップはNiron Magneticsで、使用する材料は窒化鉄だ。同社の磁石は、地球上で最も豊富な金属である鉄と、空気の78%を占める大気中の窒素から作られる。ネオジムも、ジスプロシウムも、テルビウムも、中国の処理施設も必要としない。米国の防衛サプライチェーンに対する中国の影響力は、地中のレアアース鉱石から、誘導兵器、戦闘機、海軍の推進システムに使われる永久磁石に至るまでの各工程を支配していることに依存する。窒化鉄を使う手法が設計通りに量産規模へ拡大できれば、その影響力は構造的に意味を失う。この違いは、現在とりわけ重要性を増している。中国が2025年10月に拡大したレアアース輸出規制の停止措置が、本記事の公開から約3カ月後となる2026年11月10日に期限切れを迎えるためだ。停止措置が失効すれば、中・重希土類、処理技術、磁石製造を対象とする広範な許可制度が再導入され、現在は自由に行われている取引にも中国政府の承認が必要となる可能性がある。一方、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7元素を対象とする2025年4月の許可制度は一度も停止されておらず、現在も有効である。Niron Magneticsの「Clean Earth Magnet」は、α″-Fe₁₆N₂結晶構造を基盤とする。これは、窒素原子が鉄格子の格子間位置に入り込むことで正方晶ひずみが生じる、体心正方晶の格子構造である。この配列によって高い飽和磁化が生まれ、理論上は約2.4テスラに達する可能性がある。これは最高グレードのネオジム・鉄・ホウ素永久磁石を上回る数値だ。原料となるのは、世界的に調達可能なコモディティである鉄鉱石と、大気そのものである。この技術は企業の研究所ではなく、連邦政府の資金提供を受けた研究プログラムから生まれた。エネルギー省のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は2011年、14件のプロジェクトに3160万ドル(約49億9280万円)を配分する「ARPA-E REACT(重要技術におけるレアアース代替)」プログラムを開始した。そのうちミネソタ大学のプロジェクトは、体心正方晶窒化鉄の合成と相の安定化を研究対象としていた。Niron Magneticsは、この研究成果を商業化するために設立された。その後、ARPA-EのSCALEUPプログラムから1750万ドル(約27億6500万円)の追加資金を受け、自動車関連企業との提携を経て、今回の国防総省による資金提供につながった。この材料の重要な制約も明確にしておく必要がある。α″-Fe₁₆N₂相は約250℃を超える温度で分解する。Nironの磁石が最も適するのは200℃未満の用途であり、幅広いアクチュエータ、モーター、データセンター、ロボット、電子機器をカバーできるが、熱条件が最も厳しい防衛用途には必ずしも適さない。Rare Earth Exchangesが2025年12月に公表した独立分析は、この技術について「EV用駆動モーターへの本格採用までには、おそらく3~7年を要する」と評価した。また、相の安定性、保磁力、量産規模への拡大が、引き続き技術上の課題だとしている。国防総省は、窒化鉄がすべての性能上の問題を解決済みだと見込んでいるわけではない。極端な動作温度を必要としない一部の重要な防衛用途において、この技術が地政学的な問題を解消できる可能性に賭けているのである。その範囲には、Nironがすでに開発を進めている用途が含まれる。同社は2025年12月、防衛向け精密モーション制御システムを世界的に設計・製造するMoog Inc.との提携を発表し、誘導弾システム向けにレアアースを使わないアクチュエータの開発を開始した。Moogの陸上・海洋システム事業部門ゼネラルマネージャーを務めるJason Weiss氏は、「潜在的な脆弱性に先回りして対処することで、作戦即応性を守るだけでなく、イノベーションと国家安全保障に対するわれわれの取り組みも強化している」と、その緊急性を率直に説明した。これに先立つ2023年11月には、GM VenturesとStellantis Venturesが、Clean Earth Magnetの商業化を進める資金調達ラウンドに3300万ドル(約52億1400万円)を拠出していた。ミネソタ州Sartellの工場は、延べ床面積28万7000平方フィートで、2025年10月に着工した。Nironが目標とする2027年初頭の全面稼働に達すれば、年間約1500メートルトン(約1653米トン)の窒化鉄永久磁石を生産できるよう設計されている。また、175人のフルタイム雇用を創出すると見込まれている。■30億ドルのパッケージの残り:迂回ではなく規模の拡大金曜日に発表されたパッケージの残りの投資は、既存のレアアースの枠組みを迂回するのではなく、その枠組みの中で供給能力を拡大するものだ。中国由来の材料そのものに代わる素材を作るのではなく、中国のサプライチェーンに代わる米国内の供給網を構築するため、鉱山、処理施設、教育インフラに資金を提供する。最大の案件は、カリフォルニア州のバッテリー材料企業Sila Nanotechnologiesに対する、戦略資本局(Office of Strategic Capital、OSC)からの14億ドル(約2212億円)の条件付き融資である。北米初となる自動車向け量産規模のシリコン・カーボン負極工場である、ワシントン州Moses Lakeの施設を支援・拡張する。SilaのMoses Lake工場は、160エーカーの敷地に2025年9月に開設された。現在は年間約2~5ギガワット時分のシリコン負極材を生産する初期能力で稼働しており、5年間で250GWhまで拡大することを設計上の目標としている。同社は2026年7月、フェーズ2の拡張に向けて民間から別途3億ドル(約474億円)を調達した。連邦政府の融資は、すでに生じている民間投資の勢いを戦略的に補完するものと位置付けられる。Silaのシリコン・カーボン負極技術は、中国が世界の処理能力の90%超を支配する黒鉛を、シリコンを主体とする材料に置き換えるものだ。最も性能の高い黒鉛負極セルと比べ、エネルギー密度を最大20~25%高められるという。個別案件として2番目に大きいのは、鉱業起業家Robert Friedland氏が支援するSunrise Energy Metalsに対する、4億ドル(約632億円)のOSCによる条件付き融資である。融資はスカンジウム生産の拡大を目的とする。スカンジウムはアルミニウム合金の強化に使われるレアアース元素で、航空宇宙・航空機製造において特に価値が高い。Sunriseのプロジェクトが完成すれば、一次鉱山から商業規模でスカンジウムを供給する世界初の拠点となる可能性がある。現在のスカンジウム市場は、ほぼ全面的にほかの鉱業活動の副産物に依存しており、それが慢性的な脆弱性を生んでいる。米国輸出入銀行を通じた3件の追加投資も行われる。Westwater Resourcesのアラバマ州Coosa黒鉛鉱床に対する2500万ドル(約39億5000万円)の融資、Global Advanced Metalsのペンシルベニア州におけるタンタル・ニオブ生産に対する2500万ドル(約39億5000万円)の融資、5E Advanced Materialsのカリフォルニア州にある、永久磁石や半導体に不可欠なホウ素鉱床に対する800万ドル(約12億6400万円)の融資である。これとは別に、Standard Bauxiteによる耐火物用ボーキサイトの事業に8500万ドル(約134億3000万円)超が提供される。米国国際開発金融公社は、米国の製造業向け磁石用金属を対象とするマダガスカルのレアアース鉱山を開発するため、Harena Rare Earthsへの480万ドル(約7億5840万円)の投資と同額を拠出する。■鉱業教育:投資だけでは埋まらない人材不足生産分野への投資とは別に、エネルギー省は鉱業教育機関に約1億ドル(約158億円)を振り向ける。一部の報道によると、国防総省も特定の3大学に追加で8000万ドル(約126億4000万円)を提供するという。明確な目標は、鉱業、鉱物、関連するサプライチェーン分野の資格を得て卒業する人材を倍増させることだ。戦略国際問題研究所(CSIS)で重要鉱物安全保障プログラムを率いるGracelin Baskaran氏は、米国が重要鉱物分野で中国への依存を減らすうえで、人材不足が「主要な障害」になっていると議会で証言した。Baskaran氏は2026年4月に発表した論考で、この構造的な課題をさらに広い視点から説明している。中国は単に採掘量を増やしただけではない。鉱山と製造業を結び付け、国家主導の調達を通じて需要を生み出し、サプライチェーンのすべての段階で人材に投資するとともに、米国がまだ再現できていない一体的な産業政策を進めることで、鉱物分野における優位性を築いたという。「鉱物安全保障は供給だけの問題ではなく、需要の問題でもある」とBaskaran氏は記している。「中国は鉱山と製造業を結び付け、BYDのような企業を通じて需要を生み出すことで優位性を築いた。米国には、同盟国からの調達を促し、投資を引き出す大胆な需要側政策と実効性のあるインセンティブが必要だ」こうした状況を踏まえると、鉱業教育への拠出は、資本だけでは代替できない人材基盤に対する、規模は限定的ながらも意味のある初期投資といえる。■資本だけでは解決できないこと金曜日の円卓会議には、Rio Tinto、BHP、Freeport-McMoRanなど世界最大級の鉱業会社の幹部に加え、MP Materials、USA Rare Earth、Energy Fuels、US Antimony Corpなど米国内の企業も出席した。米国で唯一、大規模なレアアース採掘事業を稼働させており、現在は国防総省から資金面の支援を受けているMP MaterialsのCEO、Jim Litinsky氏は、同社のテキサス工場でGeneral Motors向けに製造した磁石をトランプ大統領に贈呈した。深海採鉱会社American Ocean Mineralsの会長Tom Albanese氏は、太平洋の海底にあるノジュールの金製レプリカをトランプ大統領に贈呈した。国連が支援する国際海底機構の枠組み外での海底採鉱に、政権が関心を示していることを象徴するものだ。発表の規模は歴史的だが、アナリストや当局者は、投資の確約を実際の供給につなげるには数カ月ではなく数年を要すると、一貫して警告している。米国では、鉱山