Microsoftは2026年、Windows 11における32GBメモリの推奨ガイドを2度にわたって密かに削除した。一方で、同社は自ら定めたCopilot+ PCの基準を満たさない8GBメモリ搭載Surfaceを投入している。背景にはAI向けメモリ需要によるDRAM価格の高騰があるとみられる。今秋にはOSのメモリ最適化が見込まれているが、具体的な改善幅は示されておらず、PC購入を検討するユーザーにとって不確定な状況が続いている。■2度にわたる推奨ガイドの削除Microsoftは2026年に入り、Windows 11のゲーミング向けメモリ推奨ガイドを2度、密かに削除した。Windows Latestが8月5日に最初に報じた2度目の削除では、「ゲーミングPCセットアップの最適化」と題されたラーニングセンターのドキュメントが対象となった。2025年11月28日に公開されたこのガイドは、32GBのRAMを「要求の厳しいタイトルをプレイしたり、負荷の高いMODを使用したりする本格的なプレイヤーにとって理想的」とし、その構成を実現する最も簡単な方法としてCopilot+ PCを推奨していた。現在、このURLはラーニングセンターのトップページにリダイレクトされている。Microsoftからの説明はなく、Wayback Machineにも記録は残っていない。最初の削除は2026年5月に行われた。Windows Latestが同月に取り上げたそのドキュメントでは、32GBのRAMをWindows 11ゲーミングにおける「心配のいらない容量」と表現していた。DRAM価格が現実的とは言い難い水準まで高騰するなか、手が届きにくくなったメモリをさらに購入するよう勧める内容に対し、PCゲーマーから批判が寄せられた。その記事が公開されてから数日以内に、Microsoftはドキュメントを削除した。どちらの削除についても公式声明は出されていない。削除の動きは2025年後半にまでさかのぼる。MicrosoftのWindowsラーニングセンターには、最新タイトルと並行してDiscord、ブラウザ、配信ツールを実行するゲーマーにとって、32GBのRAMを「心配のいらないアップグレード」と位置付けるドキュメントが掲載されていた。2025年11月28日に公開された別のドキュメントでは、ほとんどのプレイヤーには16GBで十分だが、要求の厳しいタイトルや負荷の高いMODを使用する際のメモリ不足への懸念を解消するには32GBが適しており、それを実現する推奨手段としてCopilot+ PCを挙げていた。最初に削除されたのは、この「心配のいらない容量」をうたうドキュメントだった。現在、両方のドキュメントが削除されている。Microsoftはどちらの削除についても公式な説明をしておらず、メディアからのコメント要請にも応じていない。これは、技術的な更新でも、理由を示したうえでの推奨内容の改訂でもなく、文書そのものを消去するという企業としての選択だ。しかも、同社がそれまで約1年にわたり消費者に脱却を促してきたメモリ容量を軸に、Surfaceのハードウェアラインアップを再編していた時期に行われた。■32GBを高嶺の花にしたメモリ危機Microsoftが方針を後退させた背景には、これらのドキュメントが作成された時点から根本的に変化したDRAM市場がある。TechTimesのDDR5に関する過去の報道で詳述されているように、Samsung、SK Hynix、Micronといったメモリメーカーは、製造能力をAIアクセラレータ向けの特殊なメモリである広帯域メモリ(HBM)へと計画的に振り向けている。HBMモジュールは1個あたり約60〜100ドル(約9,480〜15,800円、1ドル=158円換算)で販売されるのに対し、同程度の容量の従来型DDR5は5〜10ドル(約790〜1,580円)にとどまる。生産能力に限りがあり、一方の製品が5〜10倍高い利益率を生むのであれば、メーカーが高利益率の製品を優先するのは合理的な判断となる。SK Hynixは2025年後半、2026年分のRAM生産能力すべてについて、すでに需要を確保したと明らかにしており、消費者向けDDR5は構造的な供給不足に陥っている。TrendForceの2026年2月の予測によると、DRAMの契約価格は2026年第1四半期だけで前四半期比90〜95%上昇し、単一四半期として過去最大の上昇率を記録した。2025年半ばには80〜120ドル(約12,640〜18,960円)だった32GBのDDR5キットは、現在では在庫がある場合でも300〜500ドル(約47,400〜79,000円)で販売されている。Gartnerの2026年2月の予測によれば、DRAMとSSDを合わせた価格は2026年末までに2025年比で130%上昇し、PCの平均小売価格を約17%押し上げるとみられている。この構造的な問題の原因は供給障害ではなく、意図的な生産能力の再配分にある。AIデータセンター向けの需要が利用可能なHBMの製造枠を吸収しており、その判断が消費者向けPCの購入者に打撃を与えるとしても、経済合理性があるため、メモリメーカーは32GB DDR5キットの増産を急いでいない。IDCの市場分析によると、主要メーカー3社の新たな製造能力が稼働する予定の2027年後半までは、実質的な供給改善は見込めないというのがアナリストの共通見解である。■矛盾するMicrosoftのハードウェア戦略ドキュメント削除のタイミングは、Microsoftが同時期に下したハードウェアに関する決定と切り離して考えることは難しい。MicrosoftのSurface製品ページによると、同社は2026年6月、8GBのRAMを搭載したSurface Pro 12インチとSurface Laptop 13インチを発売し、それぞれ849ドル(約13万4,142円)と949ドル(約14万9,942円)というエントリー価格を設定した。これらの8GBモデルはCopilot+ PCの要件を満たしていない。Microsoft自身の認証基準では、40 TOPS以上のNPUに加えて最低16GBのRAMが必要となるため、同社は自ら定めたAI PCの基準を満たさないSurfaceを販売していることになる。この矛盾はマーケティングにとどまらない。8GBのSurface Pro 12に搭載されているSnapdragon X Plusプロセッサは、Copilot+の基準である40 TOPSを上回るNPUを内蔵しており、Microsoftが提供しているCopilot+のAI機能を実行できる性能を備えている。このデバイスが認証要件を満たさないのは、AIチップの性能が不足しているからではなく、それらの機能を動作させるためにWindows 11が16GBのRAMを必要とするからだ。独立した分析でも確認されているように、849ドルのSurface Pro 12の購入者は、搭載されているRAMがOSの要件を満たさないために利用できないAI対応シリコンにも代金を支払っていることになる。一方、Windows Centralが2026年5月に報じたところによると、Intel Core Ultra 5チップと16GBのRAMを搭載したMicrosoftの上位モデルであるSurface ProとSurface Laptopは、現在1,949ドル(約30万7,942円)からとなっている。2024年に発売されたエントリーレベルのSurface Proは999ドル(約15万7,842円)からだった。同社はこの価格上昇の理由を部品不足としている。2026年6月25日までに、MicrosoftはSurface Laptopの購入ページも更新し、8GBのRAMを「ブラウジング、ストリーミング、学習、業務アプリなどの日常的な用途に最適」と説明するようになった。これは、本格的にWindows 11を利用するユーザーは16GBを基準とし、32GBを目標にすべきだと長年主張してきた同社の公開ガイドラインと明確に矛盾する。■PC市場全体への影響Microsoftの社内方針の転換は、業界全体が直面している厳しい現実を反映している。IDCの2026年第2四半期トラッカーによると、同四半期の世界のPC出荷台数は前年同期比4.9%減の6,820万台となり、9四半期連続の成長を経て初めて減少に転じた。IDCは現在、2026年通年の出荷台数が11.3%減少すると予測している。状況は第4四半期に向けて徐々に悪化し、前年同期比の減少幅は20%に達する可能性があるという。IDCのコンシューマーデバイス担当リサーチディレクターであるJitesh Ubrani氏は、「ここで本当に注目すべきなのは、台数と金額の乖離だ。需要の減少を上回るペースでベンダーが値上げを進めているため、出荷台数は減っているのに売上高は増加している」と述べた。さらに、「マクロ経済環境の悪化と、2028年初頭まで緩和しないと予想されるメモリ不足を考慮すると、在庫確保を目的とした需要の前倒しが再び起こるとは考えにくい。このことは、2026年下半期に成長率が急激に鈍化する可能性を示している」と説明した。IDCはまた、この供給不足が市場の大手企業をさらに有利にしているとも指摘している。IDCのコンシューマーデバイス担当バイスプレジデントであるJean Philippe Bouchard氏は、サプライヤーとの強い関係と大きな購買力を持つ企業ほど、メモリを確保して市場シェアを拡大しやすい立場にあると述べた。この構図は、小規模なPCベンダーと一般消費者の双方に不利に働く。■Microsoftの代替策は機能するのか消費者が同社の従来の推奨構成を購入しにくくなるなか、Microsoftは並行して別の戦略を進めている。Windows 11自体のメモリ消費量を減らす取り組みだ。2026年7月31日、MicrosoftのWindowsおよびデバイス担当エグゼクティブバイスプレジデントであるPavan Davuluri氏は、Windowsの品質改善に関する進捗レポートを公開し、8GB以上のRAMを搭載したPCのメモリ最適化を、2026年末までの最優先エンジニアリング課題の1つに挙げた。VideoCardzが確認したところによると、この取り組みには3つの技術的手段が含まれる。システムのオーバーヘッドを削減する、より効率的なメモリアロケータ、最新アプリのRAM消費を抑えるためのWinUI 3の追加最適化、Windowsのインターフェースに組み込まれているChromiumおよびWebView2コンポーネントの効率改善である。Windows 11の過剰なRAM消費の根本原因はアーキテクチャにあり、これら3つの手段はその問題に直接対処するものであるため、技術的な方向性は正しい。これはTechTimesのWebView2の仕組みに関する過去の報道でも詳しく取り上げられている。しかし、この取り組みには明確な空白がある。Microsoftはベンチマークの目標値、改善前後の数値、具体的なビルド番号を一切公開していない。PCWorldの報道によると、より広範な展開は2026年秋に見込まれているが、確定した日程は公表されていない。Microsoftがこの問題に取り組むのは、これが初めてではない。Windows Latestの報道によると、Mikhail Parakhin氏は2026年3月、アイドル時のRAM消費量とWindowsのインストールサイズをそれぞれ20%削減することを目指した「20/20プロジェクト」と呼ばれる社内施策が、当時MicrosoftのCTOだったJeff Johnson氏とともに進められていたものの、最終的には完了しなかったことを明らかにした。しかし、現在Microsoftが受けている外部からの圧力は、これまでとは性質が異なる。