フランスの電気自動車市場は2026年7月、新車登録に占めるバッテリー式電気自動車(BEV)の割合が35%に達し、欧州の主要自動車市場における月間BEVシェアの過去最高を記録した。フランス自動車工業会(PFA)が8月1日に公表した公式データによると、新車登録総数は前年同月比9%増の12万6808台で、このうちBEVは4万4378台だった。これは、7月にフランスで販売された新車のおよそ3台に1台が完全な電気自動車だったことを意味する。2年前には、その割合はおよそ6台に1台だった。今回の35%というシェアは、7月16日に申請受付を再開した低所得者向けEVリース制度「ソーシャルリース」第3弾が稼働した、わずか15日間で達成された。この制度は欧州の他国でもモデルケースとして注目されているが、充電インフラの格差や表面上のリース料金に含まれないコストなどの課題も指摘されている。■月額約1万7000円からEVに乗れる「ソーシャルリース」の仕組みフランスの「ソーシャルリース(leasing social de voitures électriques)」は、単なる販売店の割引クーポンではない。長期リース(LLD)または購入オプション付きリース(LOA)による3年間の賃貸契約で、政府が車両購入価格の一定割合を負担する。その補助金は購入者に小切手などで直接支給されるのではなく、月々のリース料金から差し引かれる。プログラムの詳細は、フランス政府のソーシャルリース専用ページで公開されている。7月16日に開始された第3弾では、政府が車両購入価格の29%を、1台あたり最大6500ユーロ(約118万円、原文のドル換算額を1ドル=158円で換算。以下同)まで負担する。車両とバッテリーの両方が欧州経済領域(EEA)内で製造されている場合、補助額は最大9000ユーロ(約164万円)に増える。電気モーターもEEA製であれば、さらに500ユーロ(約9万円)のボーナスが加算される。月額リース料金は200ユーロ(約3万6000円)以下に設定され、前払いの頭金は不要だ。契約期間は最低3年で、年間1万5000キロメートル(9321マイル)の走行距離枠が含まれる。この制度を利用した場合、シトロエンは「ë-C3」を月額94ユーロ(約1万7000円)から提供している。ルノーは電動「トゥインゴ」を月額130ユーロ(約2万4000円)から、「ルノー5」を月額139ユーロ(約2万5000円)から提供する。プジョーは「E-208」「E-2008」「E-308」を月額149ユーロ(約2万7000円)からに設定した。フォルクスワーゲンは第3弾で初めてプログラムに参加し、新型「ID. Polo」「ID.3 Neo」「ID.3」「ID.4」を対象車種としている。申請資格を得るには、課税基準所得が1万6880ユーロ(約307万円)以下でなければならない。これは第2弾の上限である1万6300ユーロ(約296万円)からわずかに緩和された。さらに、自家用車で片道10キロメートル(6.2マイル)を超えて通勤しているか、仕事のために年間8000キロメートル(4971マイル)を超えて運転していることが条件となる。ただし、目玉として示される月額料金には、加入が義務付けられている自動車保険の保険料は含まれない。ドライバーは保険料と充電費用を自ら負担し、メンテナンスパッケージを契約に追加しない限り、日常的な整備費用も負担する必要がある。このため、実際の月額総費用は200ユーロ(約3万6000円)を超える可能性がある。契約で定められた走行距離を超えた場合は、リース終了時に追加料金が発生する。Connexion Franceによると、消費者アドバイザーは、走行距離の超過と保険料を、利用者が広告上の月額料金を上回る費用に不意に直面する最も一般的な2つの要因として挙げている。■ルノーが7月の市場で存在感を示した理由2026年のフランスにおけるBEVの販売ランキングは、欧州の他の多くの市場におけるEV販売とは異なる力学で動いている。裕福な初期購入者、企業の車両管理担当者、プレミアムブランドの購入者が混在する市場というより、フランスの個人向けBEV市場は、どのモデルがソーシャルリースの対象になるか、また、どのメーカーが制度の価格条件に合わせた製品ラインを構築しているかによって、ますます左右されるようになっている。ルノーはまさにその戦略を取っている。2026年第2四半期のフランスでは、テスラ「モデルY」が1万1695台、ルノー「ルノー5」が1万579台となり、BEVの首位を実質的に争った。ソーシャルリース制度が稼働している月には、この差が大きく縮まる。2026年3月に発売されたルノー「トゥインゴ」は、すでに販売台数でフランス第6位のBEVとなっている。ソーシャルリースによる需要と企業のフリート需要の違いは、モデル別の登録状況にも表れている。EAFOのデータによると、ソーシャルリースの対象となる「ルノー5」は登録の約75%を個人購入者が占める。一方、「ルノー セニック」は登録の約85%が法人によるものだ。この対照は、同制度が、これまでフランスのEV普及を主に支えてきたフリート購入者ではなく、個人消費者へと電気自動車の需要を積極的に振り向けていることを示している。ルノーグループのBEV販売台数は2026年上半期に63.2%増加し、電動化モデルは同グループの欧州乗用車販売の52%を占めた。同社のフランス国内市場における優位性は、自己強化する構造になっている。ソーシャルリースの価格帯に合わせたモデルを増やすほど、新たな募集ラウンドが始まるたびに、同社が得る恩恵も大きくなる。■中国製EVを事実上排除するCO2スコア規則フランスのソーシャルリース制度には、中国製車両に対する明示的な制限はない。BYD、SAIC、Cheryなどの中国ブランドを名指ししているわけでもない。その代わり、対象車両には、フランスの環境スコア制度で最低基準を満たすことが求められる。この制度は、製造時の排出量、バッテリー生産の環境負荷、輸送に伴う排出量、製造拠点のエネルギー構成などを考慮し、モデルごとのライフサイクル全体のCO2排出量を評価するものだ。実際には、中国で製造された車両が必要なスコアを達成する可能性は低い。中国の電力網は欧州の電力網より炭素集約度が高いうえ、欧州までの長距離の海上輸送が物流に伴うCO2排出量を押し上げるためだ。Electriveは、その結果として中国製EVが事実上排除されており、EUの貿易規則や世界貿易機関(WTO)の枠組みとの整合性を保ちながら、原産国による制限と同様の結果をもたらしていると伝えている。これは環境スコア制度の偶然の副産物ではなく、構造的な設計上の選択である。車両とバッテリーの両方がEEA内で製造されている場合、基本補助金に最大2500ユーロ(約45万円)が上乗せされる仕組みは、欧州製モデルのコスト面での優位性をさらに高める。セバスチャン・マルタン産業担当国務長官は、第2弾の終了時に「ソーシャルリースは再工業化のための具体的な手段である」と述べ、この制度を産業再生の観点から明確に位置付けた。フランス政府は、ルノーとステランティスによる電気自動車の年間生産台数を2027年までに40万台、2030年までに100万台とする目標を掲げている。この制度設計は、貿易相手国を名指ししない産業政策の一形態である。社会的公平性を目的とする制度の適格条件に、製造地域に対する優遇を組み込んでいる。フランスのモデルを所得連動型EV支援制度のひな型として検討する欧州の他国も、制度のほかの要素とともに、この構造的な選択を引き継ぐことになる。■1カ月間のシェア35%は「ニューノーマル」と言えるか7月の35%という数字は、背景を踏まえて評価する必要がある。7月16日に第3弾が始まったことで、それまでに蓄積していた需要が月の後半2週間に集中した。制度が稼働したわずか15日間で、4万4378台が登録されたことになる。比較すると、2026年6月のBEV登録台数は5万5831台で、市場シェアは29.6%だった。ただし、新車市場全体は18万8787台と7月より大幅に大きかった。通常、自動車販売が少なくなる7月は市場全体が小さかったため、制度による需要の押し上げ効果がシェアに強く表れた。その結果、BEVの絶対的な登録台数は6月を下回ったにもかかわらず、シェアは過去最高の35%に達した。第1弾と第2弾の傾向を見ると、登録台数の最大の伸びは通常、募集開始後の数週間に発生している。第1弾は約6週間で募集枠が埋まり、第2弾は3カ月強で埋まった。7月のBEVシェア35%が持続的な水準を示すのか、それとも第3弾の開始に伴う一時的な急増なのかは、8月と9月のデータでさらに明確になるだろう。一方、7月までのBEV市場全体の成長傾向は、単なる一時的な急増ではない。Automobile Propreが伝えたPFAのデータによると、2026年1月から7月までのフランス新車市場でBEVは29.1%を占め、約28万5940台が登録された。フランスは2026年上半期、欧州の主要市場で最も大きなBEV成長率を記録し、登録台数は62.9%増加した。ドイツは48.0%増、デンマークは41.2%増だった。現在、フランスで安定して販売台数が増えている主要パワートレインはBEVだけである。ガソリン車とディーゼル車を合わせた市場シェアは17.9%にとどまり、両者で過半数を占めていた2022年から大きく低下した。燃料価格の高騰もEVへの移行を加速させている。国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Outlook 2026」によると、中東における供給混乱に関連した原油価格の高止まりにより、EUのEV利用者が節約できる年間燃料費は2025年と比べて35%増加した。IEAによると、年間3万キロメートル(1万8642マイル)を走行するドライバーは、EVに切り替えることで年間約1900ドル(約30万円)を節約できる可能性がある。これは2025年の原油価格水準での試算より700ドル(約11万円)多い。■プログラムに対する批判の声フランスのソーシャルリース制度は、主に3つの構造的な問題を理由に批判を受けている。いずれも第3弾で解消されたわけではない。1つ目は規模だ。各ラウンドは5万台を上限としており、これまで数週間または数カ月で募集枠が埋まっている。第1弾と第2弾を合わせて10万の低所得世帯が制度を利用し、第3弾ではさらに5万世帯を対象としている。フランスでは2025年に約160万台の新車が登録された。この市場規模に対して1ラウンド5万台という支援は無視できないものの、募集枠が急速に埋まる状況からうかがえる未充足の需要と比べれば、はるかに小さい。2つ目は、表面上のリース料金に含まれないコストだ。月額200ユーロ(約3万6000円)という上限は制度の目玉だが、義務付けられている保険の保険料、任意のメンテナンスパッケージ、充電費用は含まれていない。消費者アドバイザーは、一般的な利用者が実際に負担する月額費用が、広告上の支払額を大幅に上回る可能性があると警告している。また、走行距離超過による追加料金は、まさにこの制度が支援対象とする長距離通勤者にとって、特に大きなリスクとなる。3つ目は、充電設備へのアクセスをめぐる公平性だ。フランスでは2026年1月時点で、一般利用可能な充電ポイントが約18万9943基に達し、ネットワークは拡大を続けている。しかし、Connexion Franceが報じた消費者団体Que Choisirの2026年の調査によると、2025年時点で完全に稼働していた公共充電器は約3分の2にとどまった。また、同じ充電場所でも、事業者や利用方法によって料金に最大490%の差があった。ソーシャルリースが明確に支援対象とする地方在住者にとって、これはリース料金で賄われる範囲と、実際にEVへ切り替える