中国が初めて液浸DUV(深紫外線)露光装置を商用生産したと報じられた。この動きは、中国が製造できる半導体の微細化水準を引き上げるものではないが、既存の製造能力を維持するための装置を国内で調達できるようになったことを意味する。米国やオランダの政策決定によって遮断されない供給ルートを確保したという点で、戦略的に重要な節目となる。■中国初の液浸DUV装置が意味するものThe Informationの報道によると、スタートアップのShanghai Yuliangsheng Technologyを含む複数の中国企業の開発チームを取り込んだ、政府支援を受ける上海企業が、シリコンウェハー上に回路パターンを形成する液浸DUV露光装置の製造を開始した。この報道を受け、ASMLの株価は月曜日に最大8%下落し、6月上旬以来最大の1日当たり下落率を記録した。アプライド・マテリアルズ、ラムリサーチ、KLAも連れ安となり、5〜7%下落した。投資家がこの節目を評価する前に知っておくべき事実がある。アメリカン・エンタープライズ研究所が2026年4月に発表した報告書「Lithography Loophole」に記されているように、新装置の最初の顧客になるとされる中国の半導体メーカーSMICは、すでにASMLの旧型DUV装置を使って7nmクラスのチップを製造しているということだ。Yuliangshengの装置がもたらすのは、新たなプロセス能力ではない。中国がすでに持つ製造能力を支える国内供給ルートを追加するものであり、ワシントンやハーグの政策決定によって遮断されることのないルートである。これは戦略的に重要だが、市場の売りが示唆したものとは根本的に異なる。■液浸DUV装置の仕組みと能力液浸DUV露光装置は、波長193nmのフッ化アルゴンレーザー光を、「液浸」の要素となる水を通して、フォトレジストが塗布されたシリコンウェハーに照射する。水の屈折率(1.44)によって、レンズシステムの実効的な開口数(NA)を空気中より高め、より微細なパターンを形成できる。ASMLの現行の液浸装置はNA 1.35を実現し、1回の露光で38nmまでの回路パターンを解像できる。回路寸法が36nmを下回り、先端AIチップ向けの微細なプロセスに入ると、水を用いる方式は物理的な限界に達し、マルチパターニングと呼ばれる技術が必要になる。マルチパターニングは、わずかに位置をずらしたマスクを使ってウェハーを複数回露光し、1回の露光よりも微細なパターン密度を実現する技術である。SMICは少なくとも2023年からこの手法を使い、既存のASML製装置で7nmクラスのチップを製造してきた。ファーウェイの「Mate 60 Pro」に搭載されたプロセッサ「Kirin 9000S」もこの手法で製造されており、その存在を受けて、米商務省は制裁違反の可能性について調査を開始した。しかし、露光回数が増えるたびに、マスク層間の微小な位置ずれであるオーバーレイ誤差が蓄積し、歩留まりを直接制限する。アメリカン・エンタープライズ研究所の2026年4月の報告書によると、SMICの5nmプロセスの歩留まりは約20%であり、TSMCがEUV(極端紫外線)装置によるシングル露光で実現している、ほぼ完全に近い歩留まりとは対照的だ。技術分析によれば、Yuliangshengの装置は、ASMLが2008年ごろに出荷を開始した「TWINSCAN NXT:1950i」と同程度の能力を持つ。同システムは当初、シングル露光による32nmクラスのプロセス向けに設計された。ASMLの現在の主力液浸装置は「NXT:2100i」と「NXT:2050i」である。2008年当時の仕様と現在の仕様の差は、単なる開口数の違いではなく、スループット、オーバーレイ制御、歩留まりにおける約15年間の継続的な改良の蓄積を表している。新装置は、シングル露光による28nmプロセスでの製造を対象としている。エンジニアらは、マルチパターニングを使えば7nmクラス、さらに歩留まりは低くなるものの、5nmチップの製造に到達する可能性もあるとみている。つまり、SMICがASML製装置ですでに到達しているのと同じ限界に位置しており、それを超えるものではない。■開発の背景:Yuliangsheng、SiCarrier、ファーウェイ業界の報道でこの生産計画の中心とされているのは、2022年に設立され、登録資本金10億人民元(約1億4800万ドル、約243億円、1ドル=164円換算)のスタートアップ、Shanghai Yuliangsheng Technologyである。TrendForceによると、ファーウェイとの関係が報じられている深センの半導体製造装置メーカーSiCarrierも株主に名を連ねている。この生産計画全体には、Yuliangshengだけでなく、複数の中国企業から集められた開発チームが関与しているとみられる。ロイター通信は独自の情報源に基づき、量産立ち上げを担う企業としてShanghai Aishengnaという別の事業体を挙げている。意図的に秘密裏に進められているこの計画を巡り、関係企業の構図には曖昧さが残っている。新システムの部品の大部分は中国国内で調達されている。ただし、一部の重要部品は依然として日本から調達されており、国内サプライヤーの遅れが2026年の生産量を制限している。この装置は2025年9月からSMICで評価を受けている。初期の顧客としては、SMIC、華虹半導体(Hua Hong Semiconductor)、そして今週上場した長鑫存儲(CXMT)が見込まれている。この3社はいずれも、2026年4月に米連邦議会へ提出され、その後、下院外交委員会を通過した「MATCH法案(ハードウェアに関する技術規制の多国間協調法案)」の対象施設リストに含まれている。この法案は、これらの企業に対するASML製DUV装置の販売と保守サービスを法律で禁止するものである。Yuliangshengの装置は、まさにこうした事態に備えて各社が構築を進めてきた保険に当たる。■投資家が織り込んだもの、本来織り込むべきだったもの月曜日のASMLの株価は最大8%下落し、6月上旬以来最大の1日当たり下落率を記録した。アプライド・マテリアルズ、ラムリサーチ、KLAもそれぞれ5〜7%下落し、iシェアーズ半導体ETF(SOXX)も急落した。ある二次分析は、半導体製造装置セクター全体で失われた時価総額を約440億ドル(約7兆2160億円、1ドル=164円換算)と推定している。ただし、これは単一の情報源による推定であり、規模の方向性を示す数字として扱うべきである。この株価下落は、構造的に永続すると考えられてきた競争上の堀に、少なくとも1つの亀裂が入ったとの懸念を反映している。その懸念には根拠があるが、亀裂は月曜日の市場の動きが示唆したほど大きくはない。SemiAnalysisのアナリストはCNBCに対し、「装置の性能、装置自体の量産、稼働する装置群の性能、周辺エコシステム、そして減価償却を終えたASML製装置と比べた経済性の低さは、いずれも中国製DUV装置に不利に働く」と述べた。また、「装置自体の量産は、最も過小評価されている部分だ」と指摘した。さらに、中国製装置は「輸出規制によってASMLがすでに失った売上を置き換える」ものであり、「ASMLが法的にも物理的にも供給できない装置が現地で製造されても、完売状態の受注残から売上が差し引かれるわけではない」と述べた。ODDO BHFの株式調査責任者Stephane Houri氏はCNBCに対し、この装置がDUV生産のローエンドに限定される可能性が高いことを踏まえ、「割り引いて受け止める」と語った。DGA Albright Stonebridge GroupのパートナーPaul Triolo氏は、世界規模の装置群を運用する能力について、「最低限の能力を備えた少数のDUV装置を国内で供給することと、真の競争をもたらす世界規模の装置群を支えることは別問題だ」と率直に指摘した。ASMLの中国事業への実際の依存度も、この状況を理解する手掛かりになる。ASMLの純売上高に占める中国の割合は、2025年の33%から2026年には約20%に低下した。第2四半期には、ASMLの純システム売上高約66億ユーロ(約75億ドル、約1兆2300億円、1ドル=164円換算)のうち、中国が約14%を占めた。金額にすると約9億2400万ユーロ、約10億5000万ドル(約1722億円、1ドル=164円換算)である。7月の決算説明会でCFOのRoger Dassen氏は、ASMLが2026年に約130台の液浸DUVシステムを出荷する計画で、2027年には液浸装置の生産能力を30%拡大し、2028年にはさらに30%拡大する可能性を検討していると明らかにした。Yuliangshengの5台は、ASMLの2026年の計画出荷台数の3.8%に相当する。2027年に20台を生産した場合は、同年のASMLの想定生産能力の約12%に当たる。■輸出規制が防ごうとした問題を生み出した理由今回の節目は、緊迫した政策局面のただ中で訪れた。MATCH法案は、既存のEUV禁輸措置を液浸DUV装置とその保守サービスにまで拡大するものである。一部の規定は、中国の半導体工場ですでに設置され、稼働している装置にも影響するため、大幅な規制強化となる。欧州政策分析センター(CEPA)は2026年5月のレビューで、MATCH法案は多国間合意に向けて重大な構造的障害に直面していると指摘した。ワッセナー・アレンジメント自体の交渉に約3年を要したことを踏まえると、同盟国間の輸出規制を調整するために設定された150日という期限は非現実的だとしている。政策論争の根底には、規制が意図したとおりに機能したのかという、さらに難しい問いがある。AI Futures Projectは2026年6月の予測で、中国が液浸DUV装置を商用規模で生産できるようになるのは2030年代半ばだと見込んでいた。オランダの半導体アナリストが指摘したように、実際の出来事はその予測より少なくとも10年早く到来した。アメリカン・エンタープライズ研究所の2026年4月の報告書は、より根本的な問題を記録している。中国は規制強化前に取得して備蓄していた数百台のASML製DUV装置を使い、すでに最先端に近いAIチップを製造していた。そのためDUV規制は、阻止しようとした製造能力が確立された後に適用された、不完全な措置になったということだ。中国国内での装置生産がその流れを加速させるのか、それとも中国がすでに持つ製造能力について供給網の自立を確保するだけなのかが、政策立案者にとっての重要な問いとなる。その答えはMATCH法案の政策判断を左右する。中国が自国で装置を生産できるのであれば、ASMLによる既設装置の保守を禁じても、中国の半導体生産を必ずしも遅らせない一方、ASMLには実質的な損失をもたらす可能性があるからだ。■ASMLの真の優位性とはDUVにおけるASMLの優位性は、装置そのものだけに基づくものではない。同社は40年をかけ、約5,000社の専門部品サプライヤーからなるグローバルサプライチェーンを構築してきた。通常、各EUV装置にはASMLの技術者が現地担当者として配置され、装置の約30年にわたる稼働期間を通じて顧客の工場を支援する。DUVにも同じように蓄積された専門知識が生かされている。スループットの最適化、プロセスレシピのライブラリ、計測システムとの統合、オーバーレイ制御ソフトウェア、歩留まり改善技術は、装置仕様だけでなく、ASMLの組織的な知識と顧客のプロセスフローに組み込まれた資産である。ASMLは年間約130台の液浸DUVシステムを出荷している。現在の主力装置であるNXT:2100iとNXT:2050iは、Yuliangshengの装置が現在匹敵するとされる2