米半導体大手AMDとデジタルインフラを手掛ける米コア・サイエンティフィック(Core Scientific)は、基本契約収益が140億ドル(約2兆2960億円、1ドル=164円換算)を超える、15年間のAIデータセンターインフラ提携を発表した。この契約により、AMDは米国5拠点で約530メガワットのデータセンター容量を確保し、最大2.5ギガワットまで拡大するオプションを得る。AI開発競争が単なるチップ性能の競争から、電力、土地、専用インフラの確保を含む競争へと広がっていることを示す契約だ。■AIの計算資源確保は不動産の問題にこの契約は、Core Scientificの2026年第2四半期決算と同時に発表された。AMDの歴史上最大規模のインフラ投資の一つであり、同社がサンフランシスコで開催した「Advancing AI 2026」カンファレンスで、Instinct MI455X GPU、EPYC「Venice」サーバープロセッサ、同社初のラックスケールAIプラットフォーム「Helios」を発表してから1週間もたたないうちのことだった。近年のAIを巡る覇権争いは、その大部分が「どの企業のチップが速いか」という一つの問いに集約されてきた。AMDとCore Scientificの提携は、その競争領域が拡大したことを示している。電力容量、適切な電力網の管轄区域にある土地、AI対応インフラを長期的に利用できる契約上の権利は、それ自体が戦略的資産となった。こうした資産は、競合他社が同等の環境を整える何年も前から確保できる。AMDのシニアバイスプレジデント兼企業開発担当最高戦略責任者であるMathew Hein氏は、「AIの導入は急速に加速しており、その計算資源を稼働させるには、次世代のAIを支えられる規模と電力を備えた、信頼できるインフラパートナーが必要だ」と述べた。契約の最初のトランシェ(分割実行分)に基づき、Core Scientificは5つのキャンパスで約530メガワットを提供する。AMDは、テキサス州ペコスおよびハント郡、オクラホマ州マスコギーの約380メガワットを対象とする直接のトリプルネットリース(借主が固定資産税、保険料、修繕費を負担する契約)を保有する。アラバマ州オーバーンとジョージア州ダルトンの追加の約150メガワットは、社名非公表のNeocloud顧客向けに使われ、AMDが15年間のリース期間全体にわたって全面的な信用支援を提供する。この契約により、AMDは2028年後半までに最大1.9ギガワットの将来の追加容量を予約できる権利も得ており、潜在的な総容量は2.5ギガワットに拡大する。Core Scientificのペコス施設でAMD向けに提供される最初の容量は、2027年上半期に稼働を開始する見込みだ。Core Scientificの決算説明会によると、530メガワットの契約容量の約半分に当たる約265メガワットが2027年末までに提供され、残りは2028年に提供される見込みである。契約の一環として、AMDはCore Scientificの普通株式を最大3000万株購入できる、市場価格に基づくワラント(新株予約権)を受け取った。このうち約650万株分は直ちに権利が確定し、追加のワラントは容量提供の達成状況に連動する。■AMDのラックスケールプラットフォーム「Helios」とNvidia「Vera Rubin」の比較AMDがカンファレンスで説明したところによると、この契約は、同社が7月22~23日のAdvancing AI 2026で発表したMI455X GPUとHeliosラックスケールプラットフォームを、専用インフラが必要となる規模で展開するために設計されている。1台のHeliosラックには、AMDのCDNA 5アーキテクチャを採用した72基のInstinct MI455X GPUが、18基の第6世代EPYC「Venice」CPU、Pensandoネットワーキング、オープンソースのROCmソフトウェアスタックとともに統合される。ラック全体では、最大2.9エクサフロップスのFP4演算性能と1.4エクサフロップスのFP8演算性能を備え、31テラバイトのHBM4メモリと毎秒1.67ペタバイトの総メモリ帯域幅を持つ。MI455Xアクセラレータは1基当たり432ギガバイトのHBM4を搭載し、約40ペタフロップスのFP4演算性能を提供する。AMDは、Heliosが競合するNvidiaのVera Rubin NVL72ラックシステムに比べ、FP4演算性能で15%、HBMメモリ容量で50%、スケールアウト帯域幅で50%上回ると主張している。この比較には一定の根拠があるものの、それだけでは全体像を捉えきれない。Heliosの消費電力は1ラック当たり約140キロワットであるのに対し、NvidiaのVera Rubin NVL72は約190~230キロワットであり、電力密度の面ではAMDが有利だ。一方、ラック内のGPU間通信に使われるAMDのUALink-over-Ethernetインターコネクトは、Astera LabsやEnfabricaなどが提供するサードパーティー製のスイッチング半導体に依存しており、2026年半ばの時点ではまだ広く供給されていない。購入者が契約前に理解しておくべき制約が一つある。MI455XのHBM4メモリは、NvidiaのHBM3eベースのプラットフォームと物理的に互換性のない、2048ビット配線のインターポーザーを使用している。Heliosを選択した場合、そのGPUインフラをNvidiaのハードウェアに転用することはできず、ベンダーを変更するにはシステム全体の交換が必要になる。■140億ドルがもたらすもの、そしてもたらさないものこの契約の大きな金額に隠れがちな、最も重要な意味合いは次の点にある。530メガワットの物理インフラを確保したからといって、530メガワット分の料金を支払う顧客が自動的に得られるわけではない。AMDによるインフラ投資の価値は、最終的には、負荷の高いワークロードでNvidiaではなくAMDのハードウェアを選ぶ開発者を、同社のソフトウェアエコシステムがどれだけ獲得し、つなぎ留められるかにかかっている。Bloomberg Intelligence、TrendForce、IDCの推計によると、2026年半ばの時点で、Nvidiaは売上高ベースでAIアクセラレータ市場の約80~88%を占めている。その優位性を支えているのは、主としてハードウェアではない。18年以上にわたる投資、400万人を超えるアクティブ開発者、主要なAIフレームワークへの深い統合を積み重ねてきた、Nvidiaの並列コンピューティングプラットフォーム「CUDA」である。2026年半ばの時点で、cuDNN、TensorRT-LLM、FlashAttention 3などのライブラリに完全に相当するものはROCmに存在しない。AMDのROCmソフトウェアプラットフォームは大きく進歩している。2026年5月時点の安定版であるROCm 7.2.4は、PyTorchの正式な主要サポート対象となった。PyTorchとvLLMを使用する標準的な推論ワークロードでは、AMDのInstinct MI355XおよびMI455Xハードウェアは、Nvidia H100の約90~95%のスループットに達している。独立した分析によると、学習処理での差はさらに大きく、ファインチューニングのワークロードでは、AMDのrocBLASおよびMIOpenライブラリは、NvidiaのcuDNNとTensor Core向け最適化に依然として約20~30%後れを取っている。このソフトウェア面の差に直接対処するため、AMDはAdvancing AI 2026でAnthropicとも別の契約を結んだ。この提携では、Heliosシステムに最大2ギガワット分のMI450シリーズGPUを展開するとともに、複数年にわたって共同でエンジニアリングに取り組む。AnthropicのClaudeモデルを活用してAMDハードウェア向けのワークロードを最適化し、ROCmの開発を加速させる。AMDはこの取り決めの一環として、Anthropicに最大50億ドル(約8200億円)の戦略的株式投資を行うことも約束した。最終目標にはまだ到達していないとしても、進む方向は明確だ。AMDの「OneROCm」構想は、同社のプロセッサ製品群全体で統一されたソフトウェアスタックを構築することを目指している。Anthropicとのエンジニアリング協業は、AIそのものを利用してCUDAとの差を縮めようとする異例の試みだ。Core Scientificのインフラ容量を予定通り顧客需要で満たせるかどうかは、この取り組みがどれだけ早く成熟するかに大きく左右される。■数字で見るCore Scientificのビットコイン事業からの脱却Core Scientificにとって、AMDとの契約は、2024年に本格化した事業転換をこれまでで最も強く裏付けるものとなる。かつて主にビットコインマイニング事業を手掛けていた同社は、2026年第2四半期の総売上高が1億6420万ドル(約269億円)となり、2025年第2四半期の7860万ドル(約129億円)から109%増加したと報告した。成長を牽引したのはコロケーション事業の売上高で、前年同期の1060万ドル(約17億円)に対し、2026年第2四半期は1億3670万ドル(約224億円)となり、総売上高の83%を占めた。7月中旬までに、Core Scientificは437メガワット分の容量について顧客への課金を開始しており、これは年換算の平均コロケーション売上高で約6億3500万ドル(約1041億円、GAAPベース)に相当する。約590メガワットを対象とする既存のCoreWeaveとの契約を合わせると、同社が顧客にリースしている電力容量は現在約1.1ギガワットに達し、潜在的な契約収益は240億ドル(約3兆9360億円)を超える。Core ScientificのCEOであるAdam Sullivan氏は、「AMDと戦略的関係を構築し、同社の次世代製品の継続的な展開を支援できることを誇りに思う」と述べた。事業転換による財務面の変化は明確になりつつあるが、問題がなくなったわけではない。Core Scientificは第2四半期に約12億ドル(約1968億円)のGAAPベースの純損失を計上した。これは主に、33億ドル(約5412億円)規模のシニア担保付き社債の発行とワラント会計に関連する非現金費用によるものだ。同社は同四半期中に10億ドル(約1640億円)のタームローンも返済し、テキサス州ハント郡の用地取得に2億3300万ドル(約382億円)を支出した。これらはいずれも、AMDとの契約上のコミットメントが成立する前に資金が手当てされた。同社が5つの拡張キャンパスで建設を進めるなか、資本的支出は第1四半期の3億8920万ドル(約638億円)から、第2四半期には7億9750万ドル(約1308億円)へ増加した。■ウォール街の評価市場は歓迎一色ではなく、慎重な反応を示した。決算説明会の記録によると、発表後、Core Scientificの株価は時間外取引で一時最大10%上昇したが、その後は約3%下落し、取引時間中に20.09ドル前後となった。投資家の関心が、契約の巨額な収益規模から、それを実現するために必要となる複数年の建設スケジュールと資金需要へ移ったためだ。Core Scientificに対するアナリストの見解の相違は、計画遂行を巡る実質的な不確実性を反映している。Keefe, Bruyette & WoodsのアナリストであるStephen Glagola氏は7月27日、同社株の投資判断を「アウトパフォーム」から「マーケットパフォーム」に引き下げ、目標株価も28ドルから25ドルへ引き下げた