中国最大のDRAMメーカーであるCXMT(長鑫存儲)は、上海市場への上場初日に、公開価格を約466%上回る終値を付けた。その翌日、米ワシントンでは超党派による議会調査が動き出した。CXMT株は7月27日月曜日、公開価格の1株8.66元(約1.28ドル、約210円)に対し、49.50元(約7.31ドル、約1,200円)で取引を開始した。時価総額は3兆3,100億元(約4,890億ドル、約80.2兆円)となり、取引時間中には一時、公開価格比で535%高まで上昇した。米連邦政府の高官はNew York Postに対し、この値動きに中国共産党の介入が影響したとの「強い疑念」があると語った。少なくとも2人の超党派の下院議員は、米国企業によるCXMT製メモリチップの購入を全面的に禁止するようトランプ政権に求めている。投資家、サプライチェーン管理者、政策当局者にとっての焦点は、今後の市場と規制がどう動くかである。以下の元建て金額のドル換算には、2026年7月28日時点の仲値である1元=0.1477ドルを使用している。ドルから円への換算には1ドル=164円を使用した。いずれも概算であり、為替相場の変動によって変わる。■85.6億ドルを調達し、一時中国で時価総額最大の上場企業にIPO自体、初日の取引で株価が急騰する前から異例の規模だった。CXMT(正式名称:長鑫科技集団)は、1株8.66元(約1.28ドル、約210円)で66億8,800万株を売り出し、579億2,000万元(約85.6億ドル、約1.4兆円)を調達した。これは2026年にアジアで実施された最大のIPOであり、上海証券取引所の科創板(STAR Market)史上最大の半導体企業の上場でもある。また、2010年の中国農業銀行の上場以降、中国本土の取引所で2番目に大きなIPOとなった。オーバーアロットメント・オプションが全て行使された場合、調達総額は666億元(約98.4億ドル、約1.6兆円)に達する可能性がある。South China Morning PostがIPOについて報じたところによると、上場前の機関投資家の需要は売り出し株数の約570倍に達し、個人投資家の応募倍率も212倍となった。月曜日の昼休みまでに株価は531%上昇し、CXMTの時価総額は一時3兆6,600億元(約5,410億ドル、約88.7兆円)を突破した。これにより、中国工商銀行や貴州茅台酒を含む全てのA株上場企業を抜き、一時、中国本土の取引所で時価総額最大の企業となった。終値はやや下がったものの、公開価格を約466%上回る水準だった。このIPOは中国の株式流通市場から大量の資金を吸収し、上場前の数週間でSTAR 50指数を7月1日のピークから約20%押し下げる要因となった。中国のIPO制度では、株式の割り当てが確定するまで投資家の申込資金が凍結される。このため、応募資金を確保する目的で、既存の保有株を売却する動きが生じた。■CXMTとはどのような企業で、10年足らずでどう成長したのかCXMTは2016年、合肥市の開発区から1,000万元(約148万ドル、約2.4億円)の初期投資を受けて設立され、10年足らずで世界第4位のDRAMメーカーへと成長した。Counterpoint Researchのアナリスト、MS Hwang氏の推計によると、2026年初頭のCXMTの世界DRAM出荷シェアは約8%だった。サムスン電子の約38%、SKハイニックスの約29%、マイクロン・テクノロジーの約22%に次ぎ、その他の競合企業を上回る水準である。DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)は、スマートフォンやノートPCからAIサーバー、軍事システムまで、ほぼ全てのコンピューティング機器でデータを一時的に保持するメモリチップである。戦略的な資源でもあり、その供給を支配する企業や国は、現代の軍事、金融システム、AI開発を支えるコンピューティングインフラに対して大きな影響力を持つ。こうした戦略的重要性を踏まえると、CXMTの台頭に国家の支援が重要な役割を果たしたことも理解できる。合肥市に関係する投資家はCXMT株の36.8%を共同で保有し、最大の株主グループとなっている。安徽省政府系の事業体や、中国の国家半導体投資ファンドである「ビッグファンド」まで含めると、政府関係者による保有はIPO前の株式の約半分に達する。IPOの戦略的投資家にはAlibaba Cloud、Meituan、Xiaomiが含まれる。会長兼創業者のZhu Yiming氏は、自身の保有株について上場後10年間のロックアップを約束した。これは異例に長い保有継続の約束であり、同社の長期的な成長に対する自信を示すものだ。IPOが熱狂を集めた背景には、明確な業績改善がある。CXMTは2023年に192億3,000万元(約28.4億ドル、約4,660億円)の純損失を計上したが、2025年には初の通期黒字を記録した。2026年第1四半期だけで、売上高は前年同期比719%増の508億元(約75億ドル、約1.2兆円)に達し、親会社株主に帰属する純利益は247億6,000万元(約36.6億ドル、約6,000億円)となった。2026年上半期の帰属純利益は500億~570億元(約73.9億~84.2億ドル、約1.2兆~1.4兆円)になると予想されており、アナリストはこれを1日当たり約3億元(約4,400万ドル、約72億円)の利益に相当すると試算している。この業績の反転は、CXMT単独の取り組みだけで生じたものではない。サムスン、SKハイニックス、マイクロンが先端製造能力をAIアクセラレーター向けの広帯域メモリ(HBM)に振り向けた結果、汎用DRAM市場の一部で供給余地が生じた。CXMTはその空白を埋めた。Gartnerは2026年2月、DRAMとSSDの価格が年末までに合計で約130%上昇すると予測していた。CXMTは、大手競合企業が販売量よりも利益率を重視したことによる直接的な恩恵を受けている。■マイクロン株が約5%下落し、米議員は購入禁止を要求IPO初日の株価上昇の影響は、上海市場だけにとどまらなかった。マイクロン・テクノロジー(NASDAQ:MU)の株価は月曜日の昼までに約5%下落した。CXMTが購入できないEUV露光装置を製造するオランダのASMLは7%以上下落した。SKハイニックスの米国上場預託証券(ADR)も、同社の2026年第2四半期決算の発表を前に約6~8.5%下落した。この売りは、投資家が想定する2つのシナリオに対する不安を反映している。短期的には、CXMTによる汎用DRAMの生産拡大が、Goldman Sachsが2026年に4.9%と推計した世界的な需給ギャップを解消する可能性は低い。このギャップは過去15年間で最も深刻とされる。一方、中期的には、CXMTが生産能力の拡大を続け、既存メーカーもHBMから汎用DRAMへ再び生産能力を振り向けた場合、供給増による価格圧力が生じる可能性がある。その結果、2026年を通じてメモリメーカーに大きな利益をもたらしてきた高い利益率が圧迫されかねない。全てのアナリストが、この株価下落を合理的とみているわけではない。Morgan Stanleyは、月曜日の欧米半導体株の下落を「魅力的な投資機会」と評価した。データセンター向けメモリの不足が深刻化し、2026年第3四半期だけで価格が25%以上上昇していることを理由に挙げている。KeyBancはマイクロンの目標株価を1,750ドルに据え置き、2026年第4四半期までDRAM価格が前四半期比15~20%上昇すると予測した。HSBCもサムスンとSKハイニックスの両社に対する「買い」評価を維持した。米連邦議会の反応は、より強硬だった。一部の米議員は、国家安全保障と経済安全保障への懸念を理由に、米国企業によるCXMT製メモリチップの購入を全面的に禁止するようトランプ政権に求めた。下院中国特別委員会のジョン・ムーレナー委員長とジョージ・ホワイトサイズ下院議員は7月16日、ハワード・ラトニック商務長官に書簡を送り、中国製メモリチップへの依存は「米国の国家安全保障、経済安全保障、サプライチェーンの安全保障にとって容認できないリスク」をもたらすと主張した。米連邦政府の高官はNew York Postに対し、IPO時の異例の値動きに中国共産党の介入が影響したとの「強い疑念」があると語った。こうした要求は複雑な状況の中で出されている。報道によると、米商務省は2026年6月、CXMTをエンティティリストに追加するとの勧告を一時保留した。エンティティリストに掲載されれば、米国企業とCXMTとの取引は厳しく制限される。この保留は、北京との貿易交渉に混乱が生じることを避けようとするトランプ政権の幅広い取り組みの一環とされる。CXMTはすでに、中国軍との関係が疑われる企業を掲載する米国防総省の1260Hリストに含まれている。6月8日に公表された更新版では、2月の草案で一時的に削除されていたCXMTとYMTC(長江存儲科技)が引き続き掲載された。■米議会がEUV販売からDUV装置の保守へ規制対象を広げる理由CXMTに関する最も重要な技術的事実は、米国の輸出管理戦略が現在進行形で見直されている理由も説明している。CXMTは、極端紫外線(EUV)露光装置を使わずに生産ロードマップを築いてきた。EUV露光装置は、サムスン、SKハイニックス、マイクロンが先端メモリチップの微細な回路を形成するために使用している装置である。ASMLのEUVシステムは波長13.5ナノメートルの光を使い、1回の露光でチップの回路を形成することで、従来は困難だった微細化を可能にする。ASMLはこれまで、中国にEUV装置を出荷していない。米国の圧力を受けて2019年以降維持されているオランダの輸出規制が、その出荷を禁止しているためだ。EUV装置へのアクセス制限が、中国の半導体産業にとってのチョークポイントになると考えられていた。CXMTはこれに対し、深紫外線(DUV)マルチパターニングと呼ばれるプロセスを採用した。波長193ナノメートルの光を使い、自己整合ダブルパターニング(SADP)や自己整合クアドラプルパターニング(SAQP)と呼ばれる技術により、各回路層を2~4回に分けて露光する。露光回数が増えるほど小さな位置合わせ誤差が蓄積し、製造工程も増えるため、歩留まりは低下し、ビット当たりのコストは上昇する。その結果、CXMTの現在のビット当たりコストはサムスンやSKハイニックスを30%以上上回っている。同社の先端プロセスであるG4世代のセルサイズは約16ナノメートルで、大手DRAMメーカーが2018~2019年ごろに到達していた水準に相当する。Seoul Economic DailyとTechInsightsのアナリストは、プロセス世代の差を約2~3世代とみている。ただし、この回避策は、時価総額約4,900億ドルの企業を生み出すには十分に機能した。CXMTは現在、EUV装置を利用せずに技術格差をさらに縮められる可能性のあるアーキテクチャを開発している。韓国紙のHankgyung(韓国経済新聞)は7月、CXMTが合肥工場で接合DRAM(bonded DRAM)の試験生産を開始したと報じた。これは、メモリセルアレイと周辺制御回路を別々のウェハー上に製造し、ウェハー同士をハイブリッドボンディングで接合する方式である。それぞれのウェハーを実現可能なDUVプロセスで個別に形成するため、単一のDUV加工ウェハーでは到達できない密度を実現できる可能性がある。サムスンも「B1b」プロジェクトで同様のアーキテクチャを開発している。Hankgyungが紹介した韓国業界の評価によると、CXMTによる接合DRAMの開発は、韓国の競合企業が予想していたよりも速く進んでいる可能性がある。量産規模で確認されれば、EUV規制がチョークポイントとしてどこまで有効かとい